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2021年4月19日 ダークブラウン アデレード オックスフォード

Siroeno Yosui の完成したばかりのビスポーク靴を囲みながら、作り手たちにこだわったところや苦労したことなど話してもらうシリーズです。

今回はこちらの靴について話を聞きました。よければ最後まで御覧ください。

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(左:髙井俊英、右:片岡謙)

:よろしくおねがいします。

髙井 & :よろしくお願いします。

:アデレードですね。英国靴が好きな方で、ガジアーノ & ガーリングのセントジェームスっていう有名なモデルがあるんですけど、同じデザインでビスポークをしたい、というオーダーでした。

アデレード:羽根のラインが "琴" のような形の曲線になっているデザインのこと。

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:革は、"ダークブラウンで艶のある革を" ということで、"Goldanil Calf(ゴルダニルカーフ)" を使っています。

:ゴルダニルカーフはどういう革ですか?

:ゴルダニルカーフは、イタリアの "Zonta(ゾンタ)" というタンナーの革で、質感がさらさらしているのと、キメが細かいのが特徴です。
顔料を上に乗せるような染め方ではなくて、伝統的な、染料を革に浸透させるような染め方で作られています。
なので、革本来の質感が強く残っていて、色味もすごく透明感があるような革です。

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(アッパーに使われているゴルダニルカーフ)

髙井:エイジングが楽しめる革ですよね。

:そうですね。履き心地も硬すぎず柔らかすぎず、ちょうどいいバランスの革っていうイメージです。

髙井:うちの今のイチオシです。

:うん。あと、"フルグレイン" って言って銀面をバフってないから、銀面の厚みがあって頑丈さもあります。

:"銀面をバフってない" というのは?

:他の革だと表面を均一に見せるために、仕上げのタイミングで銀面をヤスリがけして表面を整える工程があるんですけど、ゴルダニルカーフはそれをやってなくて、その分銀面が残るので丈夫になります。
そのまんま動物の皮の表面が残っている感じです。

:そうなんですね。

:そう。なのでゴルダニルカーフは広げてみると、場所によって表情が全然違うというか、テクスチャーが全然違います。
パターンを取るときも、左右差が出ないように、背骨を軸にして左右で同じ位置で取るようにします。

髙井:ビスポークならではの取り方ですよね。左右対称で取るのは。

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(中央に見える背骨のあとを軸に、左右対称に革を切り出すそうです)

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:最初にセントジェームスの話題がありましたけど、デザインは何か特徴ありますか?

:細かいですけど、パーフォレーションの間隔は狭めにしています。ものによっては穴の間隔広くて大味な感じに仕上がる靴もありますけど、これは間隔狭くしています。

髙井:クラシックな印象になりますよね。

:そうですね。

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:あとは、さらに細かいかもしれませんけど、ベロをアンライニングにしています。

:アンライニングというのは?

:ライニングを付けない仕様です。ヴィンテージの靴はそういう仕様のものが多くて、個人的に最近ハマっている仕様です。

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:あとはリクエストで、ギザを細かくしていたり、チゼルトゥにしていたり......

髙井:あとダブルトゥキャップ!

:そう!ダブルトゥキャップ。

:ダブルトゥキャップ?

:普通というか、とくに機械生産とかだとそうなんですけど、バンプ部分のパーツとトゥキャップを単純に縫いつけるような作り方をします。
でも、これはバンプをつま先まで作ってそれにトゥキャップを被せるような作り方をしています。

:つま先の部分は革が二重になっているようなイメージ?

:そうそう。これもヴィンテージの靴に多い仕様です。多分、元々はそういう作り方が主流だったんじゃないかなと思います。
舗装されてない道なんかを歩くと、つま先ってすぐに傷がついちゃうので、トゥキャップだけ剥がして新しく貼り直せるように、ダブルトゥキャップにしてたんじゃないかなと。想像ですけど。

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:今はそんなにすぐにつま先に傷がつくようなこともないので、ダブルトゥキャップにすることで機能的にどうっていうのはないです。
ただ、トゥキャップのところにシワは入らなくなりますね。
たまにトゥキャップの縫い目のところにシワが入ってしまってる靴があったりするんですけど、ダブルトゥキャップにするとシワは入らなくなります。

:トゥキャップのところにシワが入っている靴、たまに見る気がしますけど、それがなくなるのはいいですね。

髙井:あとはダブルトゥキャップにすると立体感がすこし出ますよね。

:そうですね。一枚ポンって乗ってるなって感じで、立体感が出ますね。
あと普通の作り方だと、バンプ側のパーツとトゥキャップのつなぎの箇所の表面がすこしポコっとしちゃうんですけど、ダブルトゥキャップだとそれが一切なくなるので、きれいに見えます。

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(すこしつま先部分に立体感があるのがわかります)

髙井:これも機械吊りでは多分できないので、手製靴ならではの仕様かも。

:ちなみに、イギリス系のビスポークメーカーは今でもダブルトゥキャップが主流みたいですね。
ただ、イギリス系だけなんですよね。イタリア系はあんまりやってない。

:そうなんだ。

:履き心地が柔らかいほうがいいっていう考え方なのかも。イタリア的には。

:ダブルトゥキャップじゃないほうが履き心地は柔らかいということ?

:柔らかくはなるけど、まぁ "多少" って感じかな。

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:底付けパートはどうですか?

髙井:底付けもドレス寄りですね。カラス仕上げとか、フィドルバックとか。

:上側がけっこうドレスなデザインなので、ボトムもドレスな仕様で作って統一感出るようにしています。

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髙井:今回はアーチサポートをつけてます。アーチの部分が落ちて、靴の形が崩れないように。

:アーチサポートっていうのはどういうもの...?

髙井:中底ですね。中底って普通は土踏まずのあたりを避けるような形でカットするんですけど、それを土踏まずのあたりも残すような形でカットして作る感じです。

:なるほど。

髙井:第二の芯材みたいなイメージ。

:通常の月型芯も入っているので、土踏まずのところはガッチリサポートされてます。

:そうすると、たとえば扁平足ぎみの人でも、土踏まずの部分があんまり落ちずにきれいに見えるということ?

髙井:そうですね。

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(外からは見えませんが、土踏まずのあたりはしっかりサポートされるように作られているそう)

:あとは、いつも通りですけど、羽根のまわりはガッシリ補強しています。

:シワが入りにくいようにしてるんだっけ?

:そう。羽根のあたりにシワが入りにくいように補強を入れています。
羽根を開く動作で折り目ができてしまって、そこがシワに入ってしまうんですよね。

髙井:ダービーだと顕著ですけど。

:そうですね。ダービーは羽根を開こうと思ったらいくらでも開ける作りになっているので入りやすいです。
ただ、オックスフォードも羽根を開くときの支点になる箇所にシワが入ることはあります。
なので、それを防ぐために補強します。

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(豚革の補強を入れることで、羽根を開く動作でシワが入るのを防ぐようにしているそうです)

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髙井:ちなみに底周りはオークバーク仕様です。

:インソールもアウトソールも、芯材もベイカーのオークバークです。

オークバーク:オークの木の皮で鞣された革のこと。とくにイギリスのタンナー・Baker(ベイカー)のオークバークは、多くのビスポークメーカーで採用されている。

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(ベイカーのオークバーク)

:同じオークバークなんですけど、部位が違ったり鞣す期間が違ったりして、それぞれ使い分けています。

:へぇ。どういう使い分けですか?

:えっと、たとえばこれは肩の部分で、インソールに使っています。
肩は、柔らかいのと、それほど繊維の密度がないのですこし沈みます。なのでインソールに向いています。
厚みはだいたい 5.5mm から 6mm くらいです。

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(インソールに使用される、肩の部分にあたる革)

:こっちはアウトソール用。腰からお尻あたりの部分です。

髙井:鞣しの期間がすごい長くて、1 年くらいかけて鞣されるんですよね。

:そんなに。

:そう。しっかり鞣されてて丈夫で硬い。繊維がみっちりしているので沈みにくい。なのでアウトソール向きです。

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(アウトソールに使われる、腰からお尻あたりの革)

:で、これはベリー。お腹のあたりです。厚さが 3mm くらいで使いやすいので、先芯とか月形芯に使っています。

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(芯材として使われる、お腹あたりの部分の革)

:あと最近はトップリフトもオークバークにしてます。

:トップリフトも?

:そう。最近はイギリスの問屋さんに別注でベイカーのオークバークで作ってもらっていて、それを使っています。
これまではイタリア製のベンズレザーを使っていました。
ただ、普通のベンズレザーとオークバークって鞣し方が違うので、仕上がりも全然違うんですよね。
なので、アウトソールにオークバークを使うと、本底とトップリフトの質感が "ちぐはぐ" な感じになってしまうというか...

:なるほど。それで、トップリフトもオークバークに揃えて、素材感が統一されるように?

:そういうことです。黒で仕上げるとわからないんですけど、ナチュラルなフィニッシュにすると、その素材感の違いが結構気になっちゃう。

髙井:ポイントは、オークバークっていうだけじゃなくて "ベイカーの" っていうところですよね。

:そうですね。オークバークでいうと "レンデンバッハ" っていうタンナーも有名だったりするんですけど、そことベイカーのものでもすこし違うので、全部ベイカーで統一するっていうところがポイントです。

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(ベイカーのオークバークで作られたトップリフト)

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:ちなみに二人の感想としてはどうですか?

:やっぱり甲の薄さがいいですよね。ビスポークっぽい雰囲気が出てる。

髙井:ビスポーク感ありますよね。

:うん。立ち上がりのキレイさもそうやなぁ。
非常にビスポーク感があって、いい靴ができました。

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サポートいただいたお金は、全額職人に渡させていただきます。試作のための材料費や、靴磨きイベント等への参加費の足しとして使ってもらいます。