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鹿追う犬追物

ど田舎に住んでると何がいいって、車で10分ほど走ると、すぐ山に着くこと。わが町には野生動物しか憩ってない「いこいの森」という山がある。

夏休みなどは親子連れが水遊びしたりもしてるけど、この寒い真冬の平日の夕方なんて時期には、遊んでるのは鹿ぐらいしかいない。

ということで、ここ20年、この山でこの季節、人に会ったことがないので、犬のリードを放して自由に山を駆け回らせたりもできる。

うちの犬は保護犬なので出自はわからないけど猟犬の血が流れているらしく、鹿や猪や鴨を見たらいつも大興奮。鴨を追いかけて川の中まで入って行ったり、猪を追いかけて山の斜面を登ったり。

今日も犬を放してやると、あちこち臭いを嗅ぎながら歩いていたけど、急に猛ダッシュ。これは鹿を見つけたな?と車で後を追う。

いました。鹿の白い尻毛がふたつ、犬が走ってきていることに気づいてひらひらと逃げて行く。

犬が走る。鹿が逃げる。犬が追う。鹿は仲間に危険を知らせながら山深く逃げ込む。犬も追う。私は車のエンジンを止めて、動物たちの真剣な鬼ごっこの邪魔をしないようにする。

そういえば、「犬追物」という競技が鎌倉時代にあったよなあ、と思い出す。馬に乗った武士たちが、放された犬を追いながら矢を射かけるというヤツ。犬が鹿を追ってるから、さしずめ「鹿追物」だわ。そして、鹿追う犬を私が追ってるから「鹿追う犬追う物」だわ。とアホなことを考えているうちに、犬の激しい息遣いが近づいてくる。今日も逃げられたらしい。

っていうか、うちの犬は獲物に噛みつかないタイプの猟犬の末裔のようで、猪を追い詰めた時も、猪の周りを回りながら吠えるだけだった。

鹿に逃げられた犬は、しばらく辺りの臭いを嗅いだりしているが、やがて谷に降りて小川に入り、水を飲んで戻ってくる。

毎日ではないけど、時々連れてくるので、「山行こうか」と言うとクーンクーンと鼻を鳴らして喜ぶ程度には「鹿追物」が大好きなうちの「室内犬」である。

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