【テキスト】番外編19上級貴族の姫の立場

こんにちは。紫式部です。

玉鬘が尚侍になるのか、誰かの求婚を受け入れるのか、玉鬘自身はどうしたいのか、なんでこんなに話が進まないんだ?と思っておられる人もおられるかと思います。

なので、今回は「上級貴族の姫」ってのがどういう立場なのかというお話をしたいと思います。

何度もお話しているように、時代は平安時代中期。「摂関政治」がさかんにおこなわれてた時代です。

摂関政治って、思い出してくださいね。自分の娘を帝のそばに仕えさせて、もし男の子でも産んでくれたら、その子が次期帝になるかもしれない。自分の娘が産んだ子が帝になったら、自分は帝のおじいちゃん。帝が幼ければ「摂政」という役職について「帝を補佐する」という名目で自分が実権を握れる。帝が成長すれば「関白」という役職にスライドするだけなので、実権は自分が握りっぱなし。というのが摂関政治でした。

だから、この時代には娘が生まれたら、まずワンチャン狙えるってことなんですよ。源氏の君は、玉鬘のことを「愛した人の娘だから引き取った」っていうよりも、「娘だから手駒として引き取った」というのが正解でしょう。内大臣が、あちこちにいるという娘たちを邸に引き取ってるのも、内大臣には娘が二人しかいないからなんです。ひとりは、冷泉帝の女御として宮中に仕えさせることに成功した「弘徽殿の女御」、もうひとりは雲居の雁ですね。雲居の雁も、次期帝にでも嫁がせようと思って育ててたんです。でも夕霧とあんなことになっちゃって。だからこそ内大臣は、あそこまで怒ってるんですね。二人しかいない手駒の一人が使えなくなっちゃったから。で、近江の君を引き取ってみたら、とてもじゃないけど宮仕えなんかさせられない感じの子だし。

で、玉鬘ですよ。
尚侍として帝のそばに仕えさせれば、ひょっとしてひょっとするかもしれない、ってんで、源氏の君も内大臣もめちゃくちゃ勧めてるわけです。でも、玉鬘としては、帝のそばには内大臣の娘が弘徽殿の女御としているわけだし、源氏の君が親代わりをしてる秋好中宮もいるわけで、そこに自分が割り込んでいくのは…と思って躊躇してるんですね。

じゃあ、蛍兵部卿の宮かっていうと、源氏の君の腹違いの弟ってことで、皇族だけど年齢的にたぶん、もう帝にはならない人。ワンランク下がっちゃうのね。まして髭黒大将。p国内ナンバー3の実力者だけど、ナンバー1が源氏の君、ナンバー2が内大臣、って環境なんだから、ナンバー3なんて格下。そりゃ源氏の君も内大臣も、勧めたくない縁談ですわね。ってか、髭黒大将に嫁がせるぐらいなら、源氏の君が愛人のひとりとして囲った方が、ランク的には上だっていう話で。

明石の君の娘、明石の姫君を、なぜ紫の上が育ててるのか。これも、明石の君の身分が低いから、姫君にハクがつかない。後に帝のそばに仕えさせようと思っても、親の身分が低いと軽く扱われてしまう。

源氏の君のことを思い出してください。お母さんである桐壺更衣。桐壺更衣は早くに父親を亡くしてたから、身分が低い人扱いされて、だから「女御」ではなく「更衣」だったし、源氏の君を産んでからでもひどくいじめられたし。源氏の君を、皇位継承権を持たない地位に落とすことで騒ぎがおさまったんでしたよね。そんなことになっちゃうんです。親の身分次第で。やな世の中ですね。

ということで、姫ってのは上級貴族たちにとっては「駒」でしかなかった、だからこそ大切に育てた、ってこと、知っておいてくださいね。

さあ、玉鬘はどうなるんでしょうか。引き続き本編をお楽しみくださいね。

ではまた。紫式部でした。

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