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スポーツリーグをゼロからつくり上げた「マイクロ思想」とは?

この記事は2020年に電通報に寄稿した記事を転載したものです。

ビジネスキャリアを生かした独自の発想で常識を覆し、世界で唯一の3人制バスケットボールのプロリーグをつくり上げてしまった男がいる。

今回ご紹介する、3x3.EXE PREMIERのコミッショナー・中村考昭さんだ。

3x3.EXE PREMIERは、国際バスケットボール連盟公認の3人制バスケットボールのプロリーグとして2014年に世界で初めて創設され、その後わずか6年で六つの国と地域から102チームが参加するグローバルリーグへと急成長を遂げた。

リクルート、外資系コンサルティングファーム、仲間との起業と、スポーツ界では異色のキャリアを持つ中村さんは、どうやってこの成長をつくり出してきたのか。また、これから先に何が生まれるのか。

それを解き明かすキーワードが「マイクロ思想」だ。

全ての要素を極小化する「マイクロ思想」でのリーグづくり


ここでいう「マイクロ思想」とは、スポーツリーグに関わるさまざまな要素を極小化するということだ。

・チームの運営費用
・選手のキャリアリスク
・エリア戦略
の3点において、その思想はリーグの成長に強く影響している。

順に説明していこう。  

年間500万円でスポーツチーム所有が可能!?


まず一つ目は、チームの運営費用のマイクロ化。

2020年5月に、堀江貴文氏が運営するオンラインサロン「HIU」(堀江貴文イノベーション大学校)が、3x3.EXE PREMIERへの参入を発表したのは記憶に新しい。

その発表の中で堀江氏は「小規模な予算でできるし、これまでにない運営形態も可能。ミニマムに運営できるので実験がしやすいのがよい。」と、小規模運営のメリットを口にしている。

では、堀江氏が言うミニマムな運営はなぜ可能なのか。秘密はリーグが設計するチームの役割分担にある。

一般的にスポーツリーグでは、リーグに所属するおのおののチームが選手と契約をし、年俸を支払う。特に人気スポーツでは、この年俸総額は巨額になるため、チーム経営に強く影響する。

しかしこの点で3x3.EXE PREMIERは大きく異なる。選手との契約はリーグが行い、選手への給与もリーグから支払われ、興行権もリーグが持つ。このため、個々のチームが取るべき経営上のリスクは限られる。中村さんが「500万円あればチーム運営が可能。共同オーナーなら、もっと少額でプロスポーツチームを持つことができる。」と言うように、チームの運営費用を抑え、オーナーになるハードルを下げている。これこそが、世界中で3x3.EXE PREMIERへの新規参入が増えている最大の理由だ。

薬剤師の3 x 3プロプレーヤーも!?

二つ目は選手たちのキャリアリスクのマイクロ化だ。昨シーズンにプレーした486人の中には、教師・銀行員・薬剤師など、さまざまな職の選手が在籍していた。16歳以上で、かつリーグが設ける条件を一つでもクリアした者ならば、自ら選手登録の申請ができるため、“兼業”のプロスポーツ選手が多数存在しているのだ。この制度によって、プロスポーツ選手の裾野が広がるとともに、引退後のキャリアトランジッション上のメリットも生まれている。また、選手の多様性拡大で、年俸バリエーションも拡大する。中村さんは「われわれは1億円プレイヤーを生み出すよりも、100万円選手を100人生み出すことを目指したい。」と語っている。

発想の転換ともいえるこの契約の仕組みは、プロスポーツ選手へのなり方や働き方に一石を投じたのではないだろうか。

試合は「地元のお祭り感覚」で見に行ける


三つ目は、チームのエリア戦略をもマイクロ化していることだ。

一般的に、チーム運営の世界では、地域密着を基本にしながらも、なるべく商圏を広げ、ファンを増やすことで収益を拡大しようとする。しかし、3x3.EXE PREMIERに加盟するチームのエリア戦略は、その逆をいく。

中村さんが「われわれが目指すのは、町内会のお祭りのように、その地域にいる人たちに気軽にスポーツを楽しんでもらうこと。」と語るように、3x3.EXE PREMIERは、ショッピングセンターなどの大型商業施設や神社、ターミナル駅前といった地元の人たちでにぎわう場所での試合開催を積極的に推進している。

中村さんは「オーナーたちが“自分たちでもできる”という当事者意識を強く持っており、手触り感を持ってチームを運営してくれている。」という。そしてチーム自体も、地域のお祭りが持つような郷土愛を大切にし、個性を強めることで身近なファンをつくり出している。

「マイクロ思想」がもたらす今後のプロスポーツリーグの可能性 

「マイクロ思想」でリーグ設計を行うことで、オーナー、選手、ファンそれぞれの参入(参加)障壁を下げ、リーグとしての成長を生み出している3x3.EXE PREMIER。この試みは、今後のスポーツ界にどのような可能性をもたらすだろうか。

「リーグに加盟するチームが多ければ、放送権や配信権など映像権利の組み合わせにも数多くのパターンが生まれるはずだ。」と中村さんは予想する。特に3x3.EXE PREMIERは日本ローカルではなくグローバルリーグなので、国や地域の人気や事情に合わせた、柔軟かつ多様な組み合わせも可能になるだろう。

また世の中の多くの企業と同様、「デジタル活用」はスポーツチーム・リーグでも課題であると同時に、大きな可能性だ。新しい技術の実証実験を行う際も、3x3.EXE PREMIERのチーム数と多様性は味方する。

チームはそれぞれ異なるニーズと事情を持つ。その数が多ければ、あるチームでは実証実験が難しくとも、別のチームではできる場合があるからだ。実験の結果、効果があったものを他のチームも取り入れていけばリーグ全体の標準へとなっていく。

「3x3.EXE PREMIERは積極的に実験台になっていきたい。」と中村さんが言うように、「マイクロ思想」は外部の優れたものを取り込む柔軟性と、その結果としての進化の機動力にもなっている。

外部から優れたものを取り込むという意味では、“兼業プロ選手”を生み出すユニークな選手契約の仕組みも同様だ。この仕組みはリーグやチームにさまざまな専門性を招き入れることになる。

リクルートからコンサルティングを経て起業を果たした中村さん自身がそうであるように、異業種、つまり「スポーツ業界の外」でビジネススキルを培った人材は、チームやリーグの運営に新たなアイデアと強さをもたらすだろう。

スポーツリーグをゼロからつくり上げてしまった中村さんは、同時にスポーツチーム・リーグの運営に数々の新しい選択肢をもつくり出そうとしている。唯一絶対の正解がない世界で、3x3.EXE PREMIERの成長戦略自体がひとつの壮大な実験であるのかもしれない。

  

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せがわたいすけ(瀬川 泰祐)/久喜市議会議員・スポーツライター・編集者ほか
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