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中国語(日本語)は外国語です。

私が翻訳するに当たって常々心がけていること。それは日本人にとって「中国語は外国語である」という意識で臨むことです。裏を返してみれば、中国人にとって「日本語は外国語である」ということにもなるのでしょう。この点は私のnoteでもこれまで何回も注意喚起してきました。

日本人は英語を勉強する場合、全く知らないアルファベットを読み書きします。その分、私たちは「外国語を勉強しているなぁ」という気持ちになります。キライになった人もいるかもしれません。でも少なくとも「外国語」という意識で英語に臨んでいるのではないでしょうか。しかし日本語と中国語は同じように漢字を使用します。とっかかりやすいことは確かなのですが、翻訳の場合にはここが重大な落とし穴になります。

例えば皆さんは中国語を習い始めのときに、「手纸」は日本語でいう「手紙」ではなく「トイレットペーパー」であると習ったかもしれません。「油断一秒 怪我一生」と書かれた看板を見て中国から来た人が驚いた、というエピソードを聞いた人もいるかもしれません。

これらのことは、会話レベルの中国語を目指している人ならば、さらっと聞き流せばいいのですが、中国語翻訳者として中国語の原文に対峙したならば、「いつ何時も」このことを頭に留めておくべきです。つまり「日本語と同じ語句が中国語の原文に出てきたら、まず日本語の同じ漢字の語句の意味ではないとという意識で臨め」ということです。これは私が新人に口を酸っぱくして言っていることでもあります。

例えば、「发展」ということが単純に「発展」とは訳しきれないケースがあるということを当noteでもお伝えしました。中国語の「安全」という語句が単純に日本語では「安全」と訳しきれないケースがあるということを当noteでお伝えしました。

これは、最近の中国語の語句が英訳から来ていることが理由です。

このことを意識すると、これらの語句に対峙した場合に、日本語の同一の語句を訳として当てはめていいか逐次確認し、その上で中英辞典を引いてみるという対策が有効だということが理解出来ると思います。

もう1つは日中のイデオロギー的違いからくる意味の微妙なずれです。その1つとして挙げられるのは「信仰」という語句。

日本語でいう「信仰」の意味は「神や仏を信じてよりどころにすること」ということで、ほぼ「宗教」に対して使われる語句です。

しかし、特にマルクス・レーニン主義が浸透している中共大陸では宗教以外に使用されることのほうが多いのです。その理由は中共大陸では「信じてよりどころにすべきなのは」中共であるという考え方になっているから。

ですから特に大陸のニュース記事では、「信仰」の前に必ず「信仰する対象」の語句が来ます。「百度」の解釈では、「信仰」には、「政治信仰」「民族信仰」「道德信仰」という三つのレベルがあるとされています。その中でもいわゆる「宗教信仰」は「民族信仰」の中に包摂されるものであるとされています。

ただこれだけの解釈を日本語訳に盛り込むのは至難の業です。ですから「信仰」については、私は現状日本語訳の際に普通に「信仰」とし、例えば「政治信仰」の場合は「政治に対する信仰」としています。いわゆる苦肉の策ですね。

ではそもそも論なんですが、なぜ同じ漢字を使う中国語の意味と、日本語の漢字の語句の意味に若干のずれがあるのか。

日本語と中国語は同じ漢字を使用することから古くからもともと親和性は高く、中国の各王朝の時代に中国から外来語として日本に入ってきていました。

そして清朝末期から民国期になると多くの学生が日本へと留学し、日本人が欧米から取り入れたいろいろな言葉に日本語訳をつけているのを見て、それを中国に持ち帰り、自分たちの言葉にしたのです。いわゆる漢字の逆輸入ですね。

そのあと新中国になり、中国は日本以外の国の言語からも積極的に言葉を取り入れて、既存の語句に他言語から転用した訳を当てはめていったわけです。その中でもやはり世界的に影響力がある英語から取り入れた語句は多かったとも言えます。

またイデオロギー的観点からも多くの新語が今も現在進行形で生まれています。国のトップの言葉一つでどうとでもなる現在、言葉の解釈は常にアップデートすべきだと言えます。

このような理由から、民国期前後に中国人留学生が日本から持ち帰った語句については日本語訳と中国語訳ではさほど変わらないのに対し、近代以前に日本が取り入れた語句や、新中国以降中国が取り入れた語句は、中国語の漢字と日本語の漢字では若干の意味のずれが生じているわけです。

意味のずれの訳は理解できたと思いますが、われわれ言語学者でもない人間にとっては、すべての語句の由来をいちいち調べるわけにはいきません。

だからこそ、何気ない文字や語句についてはしっかりと疑ってみる「意識」が大切になってくると言えるでしょう。

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