ちょっと前の話

世界が大きく揺れ動いても、変わらず冬はやってくる。自宅より標高の高い職場に向かう道は、自宅近くより体感で数℃寒い。寒がりの私は早くもタートルネックニットにロングコートを着て毎朝毎晩、音楽をお供にその道を歩いている。

その日はたまたまUVERworldの最新アルバムを聴いていた。聴きながらふと、もう冬だと気付いた。そういえばわたしはタートルネックニットを着つつも寒いと言っていた。もう冬なのに。あわててiPodを取り出し、聴いていた曲が終わるのを待たずに、ある曲を再生した。

51% / UVERworld

UVERworld2枚目のフルアルバム「BUGRIGHT」の10曲目、いわゆるアルバム曲というやつである。この頃のUVERworldの音楽は、今よりずっと音数が少ないながら、今でも色褪せないかっこよさがある。51%もそのひとつで、このシンプルさと大人の恋愛を書いた歌詞が好きで、中学時代からよく聴く私の中での冬の名曲となっている。言葉は力を失くしていくから、ここぞという時にしか「愛してる」って言わない、なんて少し古臭いかもしれないけど、照れ屋な大人の男の人はそう考えているのかな、とか、いつか私も恋人のコートのポケットに手を入れて、中に入っている車のキーを指で鳴らしながら「たまには私に運転させて」って言うかなあと、そんな妄想をしていたこともあった。現実は「愛してる」ってちゃんと言えないと別れることだってあるし、わたしは人の車を運転できるほどの技術がなく、厳しい。

51%を聴き終え満足したところで、久しぶりにBUGRIGHTをしっかり聴いてみようと思って1曲目から再生し直してみた。1曲め、「ゼロの答」という曲は、むかーし一度だけライブで聴いたことがあった。「今日は特別な1日にしようね」とTAKUYA∞が言ったあとはいつもレアな曲を歌ってくれる。その日はゼロの答だった。プレミア曲すぎてざわついていた神戸ワールド記念ホールの景色は今でも鮮明に思い出せる。
久しぶりに聴くと、前より歌詞がハッキリと耳に入ってきた。有限の命だからこそ輝ける。考えすぎて何もしないよりは、充実の後悔をしよう。よくある話、よくある歌詞だけど、結構忘れがちだなあと改めて気づかされた。音数が少なくシンプルなメロディー、ストレートな歌詞、久しぶりに聴くととても良い。またいつか、どこかのライブで聴けたらいいなあ。

………と、こんなテンションで全曲解説する………わけではなく、単に51%とゼロの答の話がしたかっただけなのだ。もちろん他の曲も全て、10代の頃からわたしの血となり肉となった大切な音楽だ。SHAMROCKなんて何回聴いたか。ライブで初めて聴いたのはUVERworldに出会って10年が経った頃だった。ずっとずっとずっと、夢見ていた瞬間だった。アルバムよりもクリアになった声で歌われるSHAMROCKは文字通りのアップデートを遂げていて、テンションが上がりすぎて逆に感動の涙は一滴も出なかった。またいつか、どこかのライブで聴けたらそろそろ泣くと思う。

そんな色褪せない思い出と共に、冬を迎えていた、ちょっと前の話。今年は寒いと言われていたけど、あまりにも突然寒くなって、情緒も風情もあったもんじゃない。なんて思いながら、タートルネックニットの上にマフラーを重ね、わたしは今日も、通勤中にiPodの電源を入れる。さて、今日は何を聴こうか。考える時間もまた、ささやかな楽しみなのである。

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