パレスチナ映画:『オマール、最後の選択』


第86回アカデミー賞外国語映画賞にノミネート、カンヌ映画祭ある視点・特別審査員賞を受賞した、ハニ・アブ・アサド監督日本未公開作品

自爆テロに向かうパレスチナ人青年の物語を通してパレスチナ問題をパレスチナの視点から描いた作品『パラダイス・ナウ』で2006年ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞した監督の新作です。日本では2015年に公開予定です。(配給:アップリンク)

本作で頻繁に登場するのが、分離壁です。主人公オマールは監視塔からの銃撃を避けながら何度も壁を超え、向こう側に通います。彼はパレスチナを自由にするための闘いそして恋のために、壁を越えるのです。ある日、親友と共に決行したイスラエル兵士殺害のため捕まったオマールは、イスラエル軍よる拷問を受けスパイになるか恋人との生活を一生諦めるかの選択を迫られます。
本作は占領下のパレスチナに住む若者たちの恋や友情が、戦争や自由への闘いと肩を並べ共存していることが分かります。友情の結束を生み出した自由への闘いが次の瞬間には裏切りや憎しみを生み出すパレスチナの若者たちが直面している終わりなき状況が描かれています。

また、現在イスラエル軍とイスラム原理主義組織ハマスとの戦いが続いていますが、本作ではオマールと彼の親友らはどの組織にも属さずパレスチナの自由のために戦います。彼らは銃を手に入れ人気のない所で練習をし、自らの自由への願いを込めてイスラエル兵を狙います。報道ではパレスチナの組織対イスラエル軍の戦いが大きく取り上げられますが、占領下のパレスチナには組織には属さず、占領下に閉じ込められた厳しい状況をどうにかしようと奮闘する若者がいることを、本作を通して知らされます。

“私が一番誇りに思うことは、本作の制作がすべてパレスチナ人の手によって行われ、パレスチナ人のお金が出資されたことだ”と監督が語ったように、本作はその制作資金の大半がパレスチナ人によって出資された初めての作品です。
“この作品が、ヨーロッパやアメリカに依存しないパレスチナ映画制作の突破口になってほしい。私たちパレスチナ人は自分たちの映画産業を構築しなければならない。本作はパレスチナ人にとって大きな挑戦だったが、パレスチナには有能な人々がいることが証明された”と俳優のWaleed Zuaiterは語りました。
Zuaiterは本作では、オマールにイスラエル軍との協力を提案するエージェント役を演じています。彼は、アメリカ系パレスチナ人俳優で2009年には『ヤギと男と男と壁と』でジョージクルーニーと共演しています。彼は『オマール、最後の選択』で制作資金調達の責任も担い、自身も200万ドル出資しました。

Sources:

『Omar』:http://adoptfilms.com/omar

『パラダイス・ナウ』:http://www.uplink.co.jp/paradisenow/

インタビュー内容:
http://www.theguardian.com/film/2014/feb/22/omar-film-palestine-oscar-hany-abu-assad

※ 2015年にはパレスチナで初めてとなる現代アート美術館が開館予定です。これからのパレスチナの若者の動向や多岐にわたる分野での表現活動が気になるところです。それは、いまだに国家として認められていないパレスチナがパレスチナ人としてのアイデンティティーを構築して行くための大切なプロセスなのでしょう。
http://www.palmuseum.org/language/english

by Sevin
アートな中東:https://www.facebook.com/pages/アートな中東/246981025457782?ref_type=bookmark

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