1ミリも話題になっていない神アニメ『シャインポスト』を見てくれ

はじめに


今年の夏アニメといえば『リコリス・リコイル』。もちろん他にも人気の作品はあったけれども、マクロで見れば『リコリコとその他』な状況であったことは間違いないと思う。

そんな一強状態だった夏アニメの中でも、特筆して話題になっていない、もはや話題になっていないことが話題になっていると言っても過言ではない作品『シャインポスト』について紹介、もとい布教していきたい。

この作品は端的に言ってプロモーションに大失敗しており(後述)、そもそも存在を知らないか、知っていても「あぁ、どうせラブライブの二番煎じでしょ」といった感じでスルーしてしまっている人が大半だと思う。

そのため、実は狂気的なこだわりとクオリティで制作されていて、本気で泣ける神アニメであることが全く知られていない。出来の良さと反響の大きさがここまで釣り合っていない作品はほとんど見たことがないレベルだ(逆のパターンはよくあるが……)。

ファンとしてこの事態はとても悲しく(正直キレそう)、微力ながら拡散の一助になればと思い今回筆をとることにした。かなりの長文になってしまったので、少しでも気になってくれたら途中で読むのをやめてアニメを見に行って欲しい。私の願いはそっちなので。なお、物語の核心に触れるネタバレはしないのでご安心を。

王道を丁寧に、深く緻密に描く脚本

本作のアイドルたちは、観客数十人を集めるのがやっとな状態で、「売れなければ解散」を言い渡されるところからスタートする。どこかで聞いたことのあるような設定で、そこに新鮮味はない。

ここで本作独自のスパイスとして機能するのが、マネージャーの直輝(主人公的な存在)が持つ異能力「嘘をついている人間が輝いて見える眼」である。

唐突なファンタジー設定に思われるかもしれないが、これが意外にもうまくハマっている。というのも、この眼は「相手が嘘をついていることはわかる」が、「言葉のどこが嘘なのか」も、「何のために嘘をついているのか」もわからないのだ。そのため、視聴者はアイドルがつく嘘を目の当たりにし、自然と直輝の立場に立って「嘘の裏に隠れた真実」を探っていくようになっている。物語に視聴者を入り込ませるという点で巧みな設定だと思う。

直輝が嘘に気付くことがきっかけとなり、アイドル一人ひとりが抱える悩みや葛藤、トラウマを解決し、ライブで真に輝く姿を見せるというのが本作の基本的な流れだ。アイドルひとりの問題解決に2~3話をかけ、丁寧にキャラクターを深堀りするからこそ、ただでさえ神作画のライブの説得力が凄まじいものになっている。マジで泣けるんすよ、ライブ。

ちなみに直輝は優しそうな見た目に加えて山下大輝さんボイスの穏やかな語り口ながら、ここぞという時には容赦なくインサイトを突いてアイドルの本心を暴くので、印象に反して結構なスパルタである。多分ベッドの上ではヤクザだと思う。

閑話休題。「特別な誰かになりたい、輝きたい(でもなれなかった)」という使い古されたテーマでありながら、それを(少しのスパイスをかけつつ)丁寧に丁寧に描くことで、説得力あるストーリーに昇華させているのが本作だ。王道は面白いから王道なのである。

スタジオKAIによる超クオリティ作画

もともと素晴らしいストーリーの説得力を倍増させているのがライブシーンへのこだわり方だ。まずは以下の動画を見てほしい。

作画で殴る!オタクは死ぬ!

「第1話だから作画に気合入れてるだけだろ?」と思うかもしれない(私も正直思った)。だが、そんなことは全くなかった。ライブシーン全編このクオリティで殴ってくるのがスタジオKAI(『ウマ娘』2期などで知られる)のパワーである。

また、単にぬるぬる動くだけではない。「ダンスが苦手で、他のメンバーよりいつも1テンポ遅れている」という設定のアイドルが登場するのだが、そのアイドルがダンスするシーンでは本当に1テンポ遅れて描かれている。「ダンスが苦手」という設定なのに、ライブシーンで完璧な踊りを披露されたらどっちらけだが、KAIはそこも一切手を抜いていない。しかも手描きで……

なお、公式YouTubeにアップされているライブシーンの切り抜き(特殊ED)を事前に見るのはできればやめた方がいいと思っている。数話かけた掘り下げを観てから初見でライブを味わってほしいからだ。特に、「Yellow Rose」だけは絶対に先に見ない方がいいと思う。最も人気のある曲なので、紹介できないのはもどかしいのだが……私を信じてほしい。

超豪華な作家陣による楽曲提供

SMAPの『SHAKE』や『らいおんハート』でおなじみコモリタミノル、MISIA『Everything』の松本俊明、DA PUMP『U.S.A』の小松一也ら、いったい合計何枚CD売ったんだというメンツが集結している。

楽曲の雰囲気としては、「アニソン」よりも「J-POP」寄りに作られているという印象だ(OPはさすがに直球のアニソンに仕上げているが)。衣装もAKB48などを手掛けるオサレカンパニーがデザインしているように、リアルアイドルに寄せることで他作品との差別化を図っているのだと思う。実際、聴いてみると他のアイドル作品とはかなり毛色が異なり、面白い。直球のアニソンだけを求めている人には若干物足りないかもしれないが、そうでないなら、特にJ-POPやリアルアイドル好きなら気に入る曲が必ずあるはずだ。

私が特に好きなのは以下。(こちらはリリックビデオなので先に見ても問題ない。安心してほしい)

最大の問題点:宣伝の大失敗

私は自信をもって本作を『面白い』とオススメできる。YouTubeやTwitterでシャインポストを検索してみても「こんなに神アニメなのに話題になっていないのが悲しい」などといったコメントが多く、視聴者の評価は非常に高いことがわかる。

ではなぜ「観た人の評価はすごく高い」のに「観ている人が少なすぎる」のか?答えは単純で、「視聴環境が最悪だった」の一言に尽きると私は考える。

『シャインポスト』の地上波放映は日テレanichu枠。そう、深夜の関東ローカルである。この時点で強烈なビハインド状態だ。であるならばネットでの地上波同時配信に力を入れるべきだが、同時配信は有料のdアニメしかない。つまり無料かつ最速で見ることができるのは関東に住んでいる人間のみであり、これでは視聴者が増えるわけがない。関東民+dアニメでわざわざ観てくれる熱心な視聴者だけでTwitterトレンドの上位に入れるわけもなく、「話題になっているっぽいから観てみよう」というミーハー層を取り込むこともできない。最初から無理ゲーだったんだよ!

せめてABEMAで地上波同時配信ができていたら……と思うが、おそらく日テレとdアニメへの配慮でできなかったのだろう。Prime Videoなどその他サービスの配信開始は放送から3日後という遅さで(まあこれは普通だが)、誰が見んねん!という話である。

せっかく猛烈にエモーショナルなライブシーンという強みがあるのに、楽曲の発売やサブスク配信もやたら遅い。泣ける特殊エンディングを用意するのなら、放送後すぐ聴けるようにリリースするのが普通ではないだろうか?遅くとも1日後とか、Prime Videoあたりの配信が開始したタイミングにするべきだろう。実際はどうだったか?神曲と名高い「Yellow Rose」の配信が始まったのは、放送の約1カ月後だった……

これらのことは素人の私でも考えられることなので、宣伝に関わる人たちは当然考えただろうと推測する。しかし、おそらく色々なしがらみでできなかった。製作委員会の悪い部分が全部出たケースなんだろうと想像するわけである。

おわりに

本作『シャインポスト』は、「大人の事情」という悲しすぎる理由で埋もれさせるにはあまりにもったいない良作であることは間違いない。それは継続視聴しているファンたちの評価にも表れている。ただとにかく、視聴者の母数が足りない。このままでは、開発中のゲームもひっそりリリースしひっそりとサ終……という事態になりかねないと危惧している。

ここまで読んでくれた方は、おそらく、少しは本作のことが気になってきていると思いたい。諸事情でストップしていた放送も今週からいよいよ再開し、クライマックスに突入する最高のタイミングなので、ぜひ今すぐに視聴を始めてほしい。一つ、お得な情報を付け加えておくと、

この楽曲は本編履修前と履修後で全く感じ方が変わる衝撃の一曲になっている。これを5カ月前から仕込んでいたのには驚きだ。これから本作を観よう!と思ってくれた方はぜひ先に聴いておくといいだろう。そして後で脳を破壊されてほしい。

それでは、実は私のnoteデビュー作だったこの記事を、本作に登場する「絶対アイドル」螢の言葉で締めさせていただく。さあ、輝こう!


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