日米が防衛産業を対象に協議体設立で調整 ロジスティクでも進む日米一体化(20240404)

産経新聞は4月3日、日米両政府が4月10日にワシントンで開く日米首脳会に際して、防衛産業の連携強化で合意し、新たな協議体「防衛産業政策調整会議」を立ち上げる方向で調整に入ったと伝えた。

日本は2022年12月に閣議決定した安保三文書で、米国は2024年1月に公表した「国家防衛産業戦略」で、防衛産業と技術基盤を強化する政策を推進している。この背景には中国の習近平指導部が推し進める「軍民融合」戦略と「一体化した国家戦略システムと能力」構築など、近年急激に変化した安全保障環境がある。

日米が自衛隊・米軍ではなく、民間企業を対象とした協議体を発足させるのは異例。自衛隊と米軍の指揮系統が一体化する流れを受けて、ロジスティクの面でも緊密化することが狙いとみられ、産経新聞は「日本国内で補修できる米軍の装備品の対象を広げることも議題になる見通し。大型艦艇などを想定している」と伝えている。


日本の防衛産業をめぐる動き

日本政府は2022年12月に閣議決定した「国家安全保障戦略」で、「いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤の強化」と表現し、自国での防衛装備品(兵器)の研究開発、生産、調達の安定的な確保のために不可欠な防衛産業を育成・強化するとした。

また、2027年度までに自衛隊が保有すべき防衛力の水準を示した「防衛力整備計画」は、防衛生産・技術基盤の整備を①防衛生産基盤の強化②防衛技術基盤の強化③防衛装備移転の推進--の3つに区分している。


防衛生産基盤の強化

  • 適正な利益確保のための新たな利益率算定方法の導入による事業の魅力化

  • サプライチェーン全体を含む基盤の強化、新規参入促進の施策推進、国自身が製造設備等を保有する形態の検討

  • サイバー攻撃や情報活動からの保護、産業保全制度の強化、経済安全保障施策との連携

防衛技術基盤の強化

  • 防衛産業や非防衛産業の技術を早期装備化につなげる取組を積極的に推進

  • 将来の戦い方に直結する装備・技術分野に集中投資

  • 我が国主導の国際共同開発、民生先端技術を積極活用するための枠組み構築

防衛装備移転の推進

  • 防衛装備移転三原則や運用指針を始めとする制度の見直しについて検討 

  •  官民一体となった防衛装備移転の推進のため、基金を創設し企業支援


この防衛産業・技術基盤の強化に関しては、23年6月に制定した「防衛生産基盤強化法」に基づき、防衛省の外局である防衛装備庁が所管している。

同法の規定により、防衛装備品を生産する施設のうち事業継続が困難な生産ラインを国有化したり、製造施設を一時的に買い取ることができるため、法案審議に際して、防衛産業の国有化を可能にする異例の法案と指摘された。

防衛資産基盤強化法のイメージ(防衛装備庁)

しかし、異例には理由がある。防衛産業の市場規模は約3兆円と言われるが、販売先が自衛隊に限られ、収益性も低いことから撤退する企業が増えていた。国有化や基金創設は、防衛力とイコールである防衛産業を「防衛」するための施策だ。

そのため、23年度当初予算に施策が盛り込まれた。最新技術の導入やサイバーセキュリティ対策にかかる経費を国が負担するために363億円、装備品の輸出を支援するための基金に400億円が計上された。

防衛装備移転、つまり兵器輸出については、2014年に閣議決定された「防衛装備移転三原則」がルールとなっている。装備品の移転に際して①紛争当事国や国連安保理決議違反国への移転を禁止②国際協力や日本の安全保障に資するとき移転を許可②目的外使用や第三国への移転は事前に日本の同意が必要--と三原則を設けた。

しかし、三原則以降、完成品の輸出はフィリピンへの警戒管制レーダ1件に止まり、「運用指針」の厳しさが問題となった。23年12月の三原則運用指針の改正により、ライセンス生産の装備品をライセンス元へ輸出することなどが可能になった。

次期戦闘機のイメージ(防衛省)

さらに24年3月には、運用指針を再度改正し、国際共同開発する装備品の第三国輸出を容認した。当面は、日英伊で共同開発する次期戦闘機に限定する。

米国の防衛産業をめぐる動き

米国防総省は2024年1月11日、米国では初なる「防衛産業」を包括的に扱った戦略文書「国家防衛産業戦略(National Defense Industry Strategy, NDIS)を公表した。NDISは今後3年から5年にわたる国防総省の防衛産業への関与、政策立案、投資の指針となる。

NDISは、コロナ禍でのサプライチェーンの混乱、中国との戦略的競争による米中武力衝突の可能性、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの武力衝突を背景に策定された。米国と同盟国・同志国をサポートするために必要な防衛生産・技術基盤をいかに強靭化するのか、「21世紀型の防衛産業エコシステム」構築について記している。

NDISが冒頭で「強力かつ強靭な産業基盤は、軍事的優位性のための永続的な基盤を規定する」と記したことから分かるように、安保三文書の「いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤の強化」と共通点が多い。

NDISの目標と4つの重点取り組みは次のとおり。

目標:既存の防衛産業基盤から、より堅牢で強靭性のある 躍動的な近代化された防衛産業エコシステムへの世代交代を促進すること

  1. 強靭性あるサプライチェーン構築(Resilient Supply Chains)

  2. 防衛産業の人材確保(Workforce Readiness)

  3. 柔軟な防衛調達(Flexible Acquisition)

  4. 経済抑止(Economic Deterrence)

NDISが日本に与える影響について、清岡克吉防衛研究所研究員は、「近年の先進各国の防衛産業をめぐる潮流では、選択的自律性の追求のもと、いかに自国の産業・技 術的強みを国際的な枠組みで発揮するかが問われている。そうした構造的潮流のもと、NDIS で示された同盟国をサプライチェーンに強く組み込む方針は、それらの国々の競争力を有する防衛産業は大規模 な市場に自ずと組み込まれることとなり、さらなる国際的な競争力の向上にもつながる」と指摘する。

【参考資料】
清岡克吉「「米国国家防衛産業戦略」を読み解く」防衛研究所NIDSコメンタリー、第298号、2024年2月9日。


本記事は、日本で初めての経済安全保障ニュースサイト「Seculligence|セキュリジェンス」がお届けしています。2024年のサイト公開まで、noteで記事を配信していきます。