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手を繋ぎましょう

「しまった…」

彼は自由だ。よくも悪くもペースを崩さず、自分が興味を惹かれたものに自然と足を向けてしまう。

だからこそ、一緒に出掛ける時は気を付けていたのに、やってしまった。

ちょっとアクセサリーショップに立ち寄って、ちょっと眺めていたら(いや、相当長かったのかも)隣に居たはずの彼が姿を消していた。

「一言いってよ…」

1人ごちたところで言われている本人は不在。
とにかく探さなければ。

電話もLINEもまったく音沙汰がない。あいつはスマホが何なのか理解してるのかと甚だ疑問に思う。

「ここにもいない…」

この狭い店内で彼を見付けられない事に段々と不安になる。
先に帰った?なにかあった…?このまま…会えなかったら……

「あー、いたー」

間延びした声に振り返ると紙袋を手にした彼。

「ちょ、何処にいたの!?」
「ごめんごめん、行きたかったショップが近くだったの思い出してさ、ちょっと行ってた」
「そういう時は一言いって!」
「なんか、真剣だったから邪魔したら悪いと思って」

へらりと笑う彼にこれ以上なにを言っても無駄だと悟る。

「…ねぇ…」
「なによ」
「ごめんね」

私が呆れて黙った事を本気で怒っていると思ったのか、ちょっと反省してますの顔。

騙されないからね、あと数分もすれば忘れてまた1人で居なくなるんでしょ?

だから…

「ん。」
「?」

手を差し出すと不思議そうに私と手を交互に見つめる。その顔ちょっと間抜け。

「また居なくなったら困るから、手を繋ぎます。」
「え、俺もう35さ…」
「だまらっしゃい」
「はい」

私よりも大きな男がうなだれて、小さな子どもみたいに手を繋ぐ姿は滑稽で、笑いを誘う。

けどね、貴方がいなくなって不安に押しつぶされそうになってた私の心に比べたら何て事はないでしょ?

さて、次は何処に行こうか。



「(グイッ)だから!急に行こうとしないで!」
「あ、手繋いでたんだった」
「嘘でしょ……」

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