国道〇〇号

あなたの考えていることが本当にわかりませんでした。せっかく降った雪は雨が溶かしてしまって。クリスマスイブ、寒さに溶け込んだ街頭の光を車のライトが攫っていきました。国道脇、歩道。この間あなたと繋いだ左手はポケットの中に仕舞い込んで。自分で自分だけを温めていました。
いつからでしょう。サンタクロースを今か今かと待ちわびなくなったのは。こんなに短いクリスマスが終わっても、寂しいなんて思わなくなったのは。信じてる、みたいな顔して本当は何も信じてなかったもしれません。どうしようもなく悲しくなりました。誰かと違う顔をすると誰かが興醒めしてしまうことも知っています。誰かの嬉しいはわたしの嬉しいこと。誰かの悲しいはわたしの悲しいこと。ほら、世の中のおまじない。おまじないふりかけすぎて本当の味がわからなくなりました。自分が本当は何を思っているのか、絶対にこれといった感情がないのです。皮膚の上の自分と眼の下の自分がボタンのかけ違いを繰り返すみたいに、少しずつ、少しずつ、ズレて、誰が、どれが、何が合っているのかわからないです。嬉しい気もするし、悲しい気もするし、なんか笑える気もする。涙が出ても、どこかで泣いている自分を嘲笑っている自分がいます。わたしがわたしに気付いて、もうずっと興醒めです。わたしも本気で泣いて、本気で笑いたいです。もうこれ以上に何もないくらいに。

あなたの考えていることが本当にわかりませんでした。助手席からずっと窓の外を眺めている理由も。この曲を聴かれると自分を見透かされているような気がする、なんて呟いたわたしと、その曲を止めたあなた。
言葉なんて要らなかったのかもしれません。ただ、なんとなく、で良かったのかもしれません。言葉にすると安っぽくなってしまうと思ってしまいます。自分の感情を言葉にするのは怖いです。同じ言葉でもあなたとわたしの言葉はお互い違う要素の組み合わせでできているので。だけれどわたしはどうしても理由を考えてしまいます。答えなんて出せないと知っていながら。自分を作品にしたいのでしょう。主人公になりたいのでしょう。どんな作品でも作品なら答えが出ているような気がするのです。わからない、という答えでもいいんです。だから、自分を俯瞰してしまいます。言葉に囚われているのはわたしです。自分の浅はかさがあなたに明け透けに見えてしまわないように、あなたがあなたの尊い人生の中で組成してきた言葉を何も知らないわたしが濫用しているようで死にたくなりました。それでもわたしはそれを止めることはできません。そんなに綺麗に生きられるなんて最初から思っていません。憧れるけど。本当は自分から純度100%で生まれた綿みたいに優しくてミルクみたいな匂いのする言葉を伝えたかったんです。わたしの抽象的な言葉はあなたの中の言葉で濾過される事で蘇生されるような気がします。純水に戻っていくような気がします。ゆらゆらと浮かんでいるわたしは誰かの哲学に掬われることをただ待っているようなずるい人間です。

あなたの考えていることが本当にわかりませんでした。わかるはずがないじゃなくてわかってほしいと思ってた、とあなたが言った時、自分の知らない自分を見透かされているようで怖くなりました。わたしは人の裏を描いて生きているなんて、ちょっと、いや、かなり思っているけれど、もしかしてそれさえも見透かしているのですか?
あの子に教えてもらった曲を聴きながら、布団に入ってずっと真っ暗な天井を眺めていました。日を跨いで。わたしが眠らなくても明日は来ました。きっとわたしが死んでも世界は変わらず廻り続けるのでしょう。布団からでた左手はすぐに冷たくなりました。布団に挟まれたわたしの身体は温かかったです。布団に挟まれたわたしの身体だけです。いつか「冷たい人間だね。」と言われたことを思い出しました。誰に言われたのかは忘れてしまいましたが。わたしはわたしのことしか温めることができませんでした。誰かを温めるには、ひとりよがりではいけないことを知りました。貰ってばかりなんて野蛮でした。愛は帰さないと、渋滞してしまいます。無償の愛は循環しないと宇宙に消えてしまうようです。車のライトがストロボみたいに通り過ぎて、わたしはあなたの孤独に気づくことができませんでした。

ほら、どこかでまたわたしが笑っています。

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