20歳の記念日に着た服の話

20歳の成人式には出席しなかった。着物も着なかった。着る気に一ミリもならなかったし、借りる、買うお金もなかった。式には出なかったが友達とは会うことになっていた。中学時代の女友達。食事に行ったかな?覚えてない。けど、カラオケには行ったんだ。その時の写真が残っているから。

私はその日、自分が気に入った服を着て皆に会いに行った。用意したのは『Y′s』の洋服。白のシャツに黒のズボン。当時の自分にしては、大分無理をして買った服だ。記念日用に買ったのであって、次はいつ着るのかな?とか少し思った。高価な服は手触り滑らかで、着ると肌当たりがよくとても気持ちがよかった。そして何より、シルエットが自分の好みにピッタリだった。とても慎重に、汚さないようにと気を遣いつつ着た記憶が蘇る。

私はブランドには疎いので、Y′sが誰のブランドなのかさえ知らずに買った。よく行っていたファッションビルにお店があり、外から眺めながらいつもカッコいいなと思っていた。中に入るには勇気がいる。なかなか中には入れなかった。

記念日が迫っていたある日、意を決してお店に入った。好みの服を選んだ。丁寧に包まれる服を見ながら嬉しい反面、大丈夫かな?とちょっと不安になった。お手入れが大変そうと思ったからだ。そんなことより、こんなカッコいい服を着こなせるかの心配をするべきだったのではなかろうか。(笑)今となってはそんなことを思う。

自分なりにいいと思う化粧をし、自分で選んだ好きな服を着て皆に会いに行った。卒業して5年後の皆は、とても綺麗で輝いていた。私の姿は皆にどう映ったのかな?久しぶりの再会にドキドキしつつ楽しい時間を過ごした。お酒も少し飲んだと思う。今思えば、ドキドキしたのは皆が美しかったからだ。

この文章を書く前、ネットでたまたまY′sの記事を見ていた。急に思い出したというか、昔、買ったよなぁと。Y′sって山本耀司さんのブランドなんだと今更知る自分。20歳にその服を買った時はわかっていなかった。

あれから何十年かの月日が流れ、北野武監督の映画『Dolls』の中に山本耀司さんが手掛けた衣装を観た。とってもとっても素敵だった。素晴らしかった。真っ赤な衣装に目を奪われ忘れられずDVDを買った。何度観ても美しかった。

30年前のあの日、自分が選んだ服が山本耀司さんのブランドだったと知ってビックリしたのと同時にとても嬉しい気持ちになった。映画の中に観た、あの素晴らしい衣装、色彩。それは勿論、映画そのものの凄みも相まって言えることだが、自分にとって忘れられない映画であることは確かだ。時は違えど山本耀司さんが手掛けたものにいつも惹かれていたんだなぁ。知らず知らずに。

また、Y′sの洋服を着てみたいな。もう立派なオバさんと化した年齢になったけど着てみたいな。勇気を振り絞り、またウインドウショッピングから。ネット記事を見ながらもう一つ驚いたことがある。それは、『Y′s』が出来たのが自分が生まれた年だったということ。半世紀、、、そんな前からあったんだ、こんな素敵な洋服が!本当、カッコいいね。改めて、そう思った。