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【555】第39~40話

第39話「ファイズ2」

\宇宙キター!/回。どちらかというとメテオか。『フォーゼ』の配信も毎週ぼんやり眺めているが、「流星(朔田)が流星(横浜)と仲良くしている……」とか「映画村の新撰組コスからしか摂取できない栄養がある……」とかしょうもない事ばかり考えている。どれも捨てがたいが強いて言うならフードロイドはフラシェキー派です。

 閑話休題、お話は前回ラストの戦闘シーンからスタート。木場も巧も絶体絶命と思われたが、北崎はおもちゃの飛行機に目を奪われてふいとその場を離れてしまい、村上社長の前には里奈からの連絡を受けた草加、そして草加から連絡を受けた木場が立ちはだかる。巧に友誼を感じている木場はともかく、草加が巧を助けに来たのは意外であった。巧発見の報を受けてとりあえず飛び出してきただけなのか、それともやはり自分の手で殺さないと気が済まないのか。なんとなく後者の気がする。巧を追おうとする真理は止めようとするし、真犯人=北崎と知った後には、ダイレクトに「俺自身の仇」と息巻いていたし……。
 その「仇」のもととなる、同窓会の日の出来事について、ついに澤田の口から真相が明かされる。鮮明になった回想シーンに映し出されるのは以下の状況である。

・塾生たちがグラウンドで花火をしている最中、遠くからよろよろと此方へやってくる二人の人影。一人は倒れ、一人は青白い炎を全身から放つ。
・塾生たちはグラウンドの反対側へ走って逃げだす。ビデオカメラを持っていた真理は転んでしまう。
・グラウンドのフェンスまで逃げた塾生たち。草加は真理を助けに行こうとするが止められている。そこで、ひとりの塾生がオルフェノクに変身し、皆を襲い始める。
・鋭い爪に貫かれ、殴られて、なすすべもなく倒れていく塾生たち。
・たまたまバイクで通りかかった巧が悲鳴を聞きつける。「流星塾」の看板を視認。「よせ!」と現場に乱入し、オルフェノクとなって戦おうとする。
・ウルフオルフェノクの腹パン一発で、塾生だったオルフェノクは炎を上げて消滅。
・ウルフオルフェノク、真理に弁解しようとするが、真理は恐怖のあまり逃げ出す。その行く手を遮るように、ドラゴンオルフェノクがのっそり姿を現す。
・ウルフ、真理を突き飛ばしてドラゴンと交戦するも、弾き飛ばされて変身がとけ、意識を失う。
・澤田、意識を取り戻す。ドラゴンに迫られる真理を見、間に入って真理を守ろうとするが、腕の一振りで弾き飛ばされる。頭に怪我を負い、倒れる。
・真理、ドラゴンに首を絞められる。

 数えてみると、この惨劇には最低でも4人ものオルフェノクがかかわっていることになる。最初に倒れた者(炎を上げて倒れたのだからオルフェノクであろう)、塾生、巧、そして北崎。最初の者がなぜ倒れたかはわからないが、北崎の手によるのか、あるいは別の要因かもしれない。その場合はさらに関係者の人数が増える可能性もある。こんなに役者がそろっているのだ、澤田が「スマートブレインの罠」と言うのも確かに説得力がある。
 その澤田、襲われる真理の姿を見て無意識に体が動いていたようだが、へっぴり腰で両手を広げてドラゴンオルフェノクに対峙する様子は、まさに真理が言うところの「私の知ってる澤田君」そのものである。人を思いやれる優しい子なのだ。だったのだ。「澤田君はもう、私の知ってる澤田君じゃないってわかってるから」と真理に言われ、目を伏せて俯く澤田。自ら望んで真理から恐れられようとしていたのに、いざ真理の口から直接それを聞くと、やはり心が痛むのだろうか。
「俺たちを襲ったのは、二つの姿に変身できるオルフェノク。ラッキークローバーの一人だ」と、澤田は静かに告げる。虐殺の張本人は北崎でなく塾生に紛れ込んでいたオルフェノクでは? といまいち腑に落ちないような気もするが、北崎が彼を従わせて同窓会を乱闘パーティーに変えてしまったということなのだろうか。ラッキークローバーは他のオルフェノクを部下のように扱っているし。ときに今回北崎が連れていたオクラオルフェノク、オクラってなんだよと思ったらマジのオクラでちょっと笑った。確かにネットに入って売られているものな……。
 ウルフオルフェノクの破壊力の高さは、やはり巧が特別な存在であるということなのだろうか? パンチ一発であっけなく塾生オルフェノクを倒したからこそ、その巧を軽くいなして戦闘不能にする北崎の強さが際立つ。なお、巧が生まれて初めて自発的に変身したこの夜のことをよく覚えていなかったのは、あそこで頭を打ったからという理由もあるのかもしれぬ。抜け落ちた記憶に欠けたピースを嵌められて不安が増幅していたわけだが、真理に誤解を晴らされてもなお、一度芽生えてしまった恐れは拭い去ることが出来ない。紙に落ちた一滴のインクのように、それはいつまでも黒い染みとなって残り続ける。

「あの日俺たちは死んだ」と澤田は言う。そのことを草加は「出来れば知ってほしくなかった」と呟く。「君には普通の女の子として、生きて欲しかったから」。草加が真理を「母親になってくれるかもしれない女」「救ってくれるかもしれない女」と認識していたことを考えると、真理が「普通の女の子」で居続けることは、彼にとってはあの惨劇を忘れて「普通」の生活を送り続けるための唯一のよすがだったのかもしれない。
 ……しかし、真理はその真実を知ることが出来て嬉しいのだという。「私たちを襲ったのは、巧じゃないってはっきりしたから」……真理の視線はずっと巧の方ばかり向いていて、草加はおろか、彼女自身を顧みることすら後回しになっている。草加はなすすべもなく、真理の後姿を眺めるほかない。

 かつてラッキークローバー入りを画策したこともある草加は、当然Bar CLOVERの場所も知っている。仇の相手を待ち伏せすることも容易だ。
 というわけで、とうとう草加は北崎(そしてオクラ)との戦いに挑む。だが、相手は「上の上」だ。怒りの感情だけでむやみに殴り掛かっても、簡単に勝てるような相手ではない。草加のただならぬ様子を心配した里奈が真理に連絡を取り、女子二人が駆け付けた時には、彼はすでに絶体絶命のピンチを迎えている。背に腹は代えられない。里奈はデルタの、真理はファイズのベルトを、それぞれ装着する。その様子を物陰から見つめる男二人。
 本来のデルタ装着者である三原は、仮病を使ってまで変身を拒絶している。「デルタギアを持つ資格なんて俺には無い」「無理なんだよデルタとして戦うのは、俺なんかじゃ」とかたくななのは、前回こっぴどくやられて心を折られたせいか。とはいえ、デルタギアの力に魅入られて仲間割れしていった他のメンバーたちよりかは健全な落ち込みに見える。
 巧は木場家を飛び出した真理にうっかりついてきてしまったという風情である。いつ人間の心をなくすかわからない自分がファイズギアを持つことはできない、とこちらもかたくなではあったが、何度もファイズに変身しようとしては吹き飛ばされる真理の姿に、覚悟を決めたように躍り出る。自分が変身できないのは知っていて、それでもなお状況を打開しようと真理が頑張っている。それを無視して隠れ続けられるほど、巧は冷酷な人間ではない。
 そして、「変な男の人」から真理あてに届けられた新たなデバイスを用いることで、巧は真っ赤なファイズに変化する。なんだこれはとでも言いたげな目線で立ち尽くしたのち、宇宙パワーで劇的パワーアップ! サブタイトルの「ファイズ2」とはこのことか。フォームチェンジではなくナンバリングであるからには、性能も別物と考えてよさそうだ。


第40話「人間の証」

「でも帰る家なんてどこにもない……だからみんな一生懸命生きてるんじゃないかなあ……一生懸命生きれば、いまここにいる場所が、自分の家になるから……」
 かつて「家に帰りたい」とぼやいていた三原。戦いを忌避し、デルタギアを道路に投げ捨てようとするが、里奈は身体を張ってギアを守り、代わりに大怪我を負う。
 里奈もデルタに変身することはできると、三原は知っている。だから、本当に嫌なら彼女にデルタギアを押し付けて、自分はどこへなりとも逃げてしまえばいいのだ。でも、三原はそれをしない。というか、できないのか。彼が疎んでいるのはデルタの力やそれに付随する戦いの日々ではなく、否応なしに戦いに巻き込まれてしまった自分たちの運命自体なのだ。里奈をそこに一人取り残すのは本意ではない。ギアさえ無くなればすべてが無かったことになるかもしれないと、三原は淡い期待を抱く。さすがに里奈が道路に飛び出したのは想定外だっただろうが……。
 家。巧と草加は洗濯舖の居候であり、木場の家もスマートブレインから与えられたものだ。情勢が変化していけば、いつまでもそこにとどまっていられるわけではなく、仮宿という認識は拭いきれない。
 里奈の言葉は三原に向けられたものだが、この作品の世界で必死に生きている皆にも通底しているように思う。一生懸命生きていればそこが居場所になり、家になる。家があれば屋根の下、みんなでご飯を食べることだってできる。同じ釜の飯を食ったならば、もう他人ではない。誰かとのつながりがあれば、更に一生懸命、日々を生きていくことが出来る。

 ファイズ2に変身した巧は見事オクラオルフェノクを電車斬りし(電車斬りではない)、ついでとばかりにドラゴンオルフェノクをも圧倒する。やはり宇宙パワーはすごい。しれっと宇宙進出しているスマートブレインの規模もすごい。財団Xかなにかと癒着していないか?
 真理は嬉しそうに巧に駆け寄るが、当の巧は真理にベルトを押し付けて、いずこかへ走り去ってしまう。戻ってくるにはもう少し時間が必要なのだろう。でも、真理にとっては一筋の光が射したような思いがしたことだろう。
 菊池家の薄暗いキッチン。3人で食卓を囲みながら、己の無力感のあまり啓太郎は泣き出してしまう。その啓太郎を、真理は優しく勇気づける。「巧はきっと帰ってくるから」と微笑む彼女に、もう不安の影は見えない。
 その巧は冴子を相手に、ラッキークローバーとの戦いを申し入れる。私たちを道連れに自分も死のうとしている、と冴子に看破され、巧は否定も肯定もしない。オルフェノクを倒すための道具であるファイズギアを真理に預けている今、巧が使えるのは己自身の力のみである。もちろん巧の勝率ははかばかしくない。それを承知で、冴子は巧の挑戦を受け入れる。アイスピックで荒々しく氷を砕く音は、巧への決別のようだ。

 ふたりのやり取りを偶然聞いてしまった澤田は、駐車場で巧に声をかける。自らの死期を悟っている風な彼は、巧にさらなる事実を開陳する。
 まず、流星塾同窓会での虐殺ショーは、すべてスマートブレインが実験用素体を手に入れるための企てだったということ。怪しげな手術室の壁には塾生たちの顔写真が貼り付けられ、各々にナンバーが振られている。さきに真理が手術を受けた際のナンバーはこの時の被験者ナンバーだったのだろうか、と思って呟きを見返したが、前回は「№1633」、今回は「№15844」だったので全然違った。16と15が平成年度を表しているのかとも思ったが、暦通りならファイズ世界は平成15年なので1年ずれており、多分考えすぎ。
 記憶を消され、「オルフェノクの記号」を埋め込まれ、塾生たちの死体は元の通りに息を吹き返した。だが、澤田以外の死体は「失敗作」であり、オルフェノクとしての力が覚醒することはなかった。
 風化しつつある自分の手を見つめ、澤田は「俺もやっぱり、失敗作だった、ということらしい」と苦しそうにつぶやく。彼はきっと、オルフェノクになれなかったかつての仲間を「失敗作」とあえて見下すことで、人間でなくなってしまった自分の気持ちにどうにか折り合いをつけようとしていたのだろう。だが、自分の体もまた完全なるオルフェノクとは呼べず、戦いのダメージも蓄積した結果、すでにぼろぼろである。
 倒れた澤田を廃教会まで運び、上着をかけてやる巧。目覚めた澤田に何故助けたと問われ、彼は「お前も、被害者だからな」と静かに答える。それはきっと、澤田が一番欲しかった言葉だ。自ら望んで加害性を身につけたわけではない。澤田だって、真理や草加と同じく、同窓会の夜に運命を捻じ曲げられたひとりなのだ。「失敗作」なんてオルフェノク目線の評価ではなく、あくまでも澤田を人間として扱う言葉。
 虚を突かれたように小さく笑ってから、澤田は巧のみぞおちに拳を叩きこむ。真理に教会の場所を伝えて、澤田は一人出かけていく。向かうはラッキークローバーとのタイマン勝負だ。冴子の言う「私たちを道連れにして自分も死ぬ」を、巧に代わって自らやろうというのである。自分の持つオルフェノクとしての力を、最期に最大限に活用するために。

 だが、さすがに3対1では分が悪い。間断なく攻撃を受け続け、吹き飛ばされた澤田の目の前にやってきたのは草加である。冴子から巧への電話を耳にした草加は、澤田がそこで戦っていると知ってわざわざやってきたのだ。
 バイクから降り立つ草加はまばゆい光に包まれて表情も見えず、まるで救世主のようである。だが、カメラが地面を滑るような角度で草加に寄っていくと、その光は次第に消え、険しいまなざしがあらわになる。彼がここに来たのは澤田を助けるためではない。澤田がラッキークローバーに殺される前に、自らの手で命を奪うためだ。いかに澤田が人間であろうと、またオルフェノクであろうと、人々を手にかけた罪や真理を傷つけた罪は消えるものではないのだ。
 かくして草加はカイザに変身し、澤田に必殺のキックを叩きこむ。だが、直後に北村たちが横やりを入れてきたため、その場でとどめを刺すには至らない。草加が交戦している隙に、澤田はふらふらとその場を逃げ出すが、そうそう遠くへ行くことも出来ず、ついには浅い流れの中に倒れてしまう。
「俺は人間としてもオルフェノクとしても生きられなかった」と声を絞り出す澤田。巧の身代わりになって死ぬことも出来ず、真理を殺すことも出来ず……。だが、駆け付けた真理は澤田を抱き起こし、「澤田君は人間だよ、昔の優しかった澤田君のままだよ」と言い募る。前回、真理は「私の知ってる澤田君じゃない」と冷静に告げていたが、澤田の言が巧への誤解を解いたのと同様に、巧の言が澤田への誤解を解いたのだ。
 泣きそうに顔をゆがめながら、それでも澤田は最後の力を振り絞って真理の頬に触れ、微笑む。思い出しているのは幼い日、転んでしまった真理に折紙をあげた日のこと。あの時も今も、泣かないで、とただひとこと伝えたかったのだ。
 真理の涙をぬぐった指は、そのまま力なく水面に落ちた。
 身体がオルフェノクである以上、遺体は青い炎となって燃え尽きる。人間として認められ、死んでいった澤田であっても、それは例外ではない。

 ここでひとつ、またしてもスレ違いが生じている。
「巧の代わりにラッキークローバーと戦いに行った澤田」を探していた巧と真理は、ぼろぼろになった澤田を発見した。となれば当然、澤田をこんな目に遭わせたのはラッキークローバーであると考えるのが自然である。
 だが、実際に澤田に致命傷を負わせたのは草加である。現場を目撃したものは誰もいない。後から草加に合流した三原も、現場に到着したのは澤田が逃げ去り、草加とラッキークローバーが交戦を始めてからだ。
 草加一人がうまく立ち回っていることなどつゆ知らず、巧は劣勢のふたりのもとへ駆けつける。現場に飛び込んだ巧は両足でしっかりと大地を踏み、草加とその場の全員に向けて宣言する。
「俺は戦う。人間として、ファイズとして!」
 人間かオルフェノクかで悩んでいた巧が、その段階を一つ越えて、自らを「ファイズ」なるものであると決めた。心の持ちようだけでなく、生き方までもを定めたのだ。目指す方向に向かって、彼の車輪はもう迷わない。
 Ⅳ度の和音から力強く始まる、オープニング曲のアレンジバージョン。ベースの音は、巧のこれまでの時間の積み重ねを表しているかのようだ。一音ずつ上がって、一度頂上に落ち着いたかと思えばがらがらと崩れるように下がって、でもまたひとつずつ階段を上り、とうとうAメロ前の安定したリズムにたどり着く。
 三者三様の掛け声で、光のラインが巧達の身体に走る。3ライダー揃い踏みである。ストレートにテンションの上がる絵面! 相手も3人、数は互角だ。拳を手のひらに当てるカイザ、緊張したように居住まいを直すデルタ。ファイズがいつものように手をはらう。その鋭い音を合図に、ライダーたちはまっすぐにラッキークローバーを睨む。覚悟の決まった佇まいの中、「信じてた未来が崩れ去ろうとしてる」と歌うBGMだけが不穏である。
 


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