【剣】第13~14話
第13話
そういえば始さん=カリスはアンデッドサーチャーには「アンデッド」として表示されるのだなあ、と思いつつ第13話。ブレイドやギャレンはBOARDが開発したものなので固有の波長的なものをキャッチできる=固有名で表示できるが、カリスはいかにライダーらしい見た目をしていたところでBOARD(というか人類)にとってはアンデッドの一人でしかないのだなあと思う。虎太郎の「あいつはアンデッドなんだ、人を襲ってる奴と同じなんだよ」という台詞がその認識を端的に示している。もっとも、実際に対面した剣崎は「でもあいつ、なんか感じが……ここにいた時以上に、厳しいっていうか……」と始の微妙な変化を感じているようだ。栗原家を離れたことで始が得た「厳し」さとは、人間にもアンデッドにも交わらず孤高に生きていく覚悟か。始には人間と共に生きるポテンシャルがあり、人間の側も(少なくとも事情を知ることが無ければ)おおむね好意的に彼を受け入れる。だが、生まれ持った気質と常に付け狙われる環境が、始に日々の安寧を許さない。
一ノ瀬仁に手ひどく別れを告げられたのちも、始は積極的に人間を憎んだり、襲ったりはしない。蜘蛛アンデッドの気配を追って子蜘蛛を見つけた彼は、同じくアンデッドを探してやってきた剣崎にその蜘蛛がカテゴリーエース適合者の印であることを教えてくれる。そして、伊坂がその適合者を探していることも。
「俺には関係ない。ま、せいぜい頑張るんだな」
自分に賭けられた誘拐犯の嫌疑を晴らすために知っている情報を開示した、という風情で立ち去ろうとする始。その背中に剣崎は声をかける。
「俺は人間を守る。アンデッドの好きにはさせない。……天音ちゃんや遙香さんも、俺がこの手で守ってやる!」
今回のここが気になる
剣崎の「天音ちゃんや遙香さんも、俺がこの手で守ってやる」という台詞について。
剣崎の声を聞きながら、始はバイクにまたがり、ヘルメットを手にする。そして、「天音ちゃんや遙香さんも」で剣崎の顔をじっと見つめ、俺がこの手で守ってやる」と言い切った後にはついと目をそらしてしまう。
ググっていてたまたま見つけた論文なのだが、なんとも二人の状況に合致しているようで興味深い。剣崎は始に「自分が天音と遙香を守る」ことで二人に迫る脅威を解決することを宣言した。始は栗原家を出奔し、二人の安全については何の保障も持たない身である。
カリスとブレイドの力量、人間とアンデッドとの能力の差を考えた時、二人の持つ戦う力(=守る力)についてはやはり始の方が優位であろう。だが、こと栗原家にシチュエーションを限定するならば、いま天音たちの身の安全について制御性を宣言しているのは剣崎の方であり、この局面に関してだけ、剣崎は始よりも上位の存在となるのだ。だから始は剣崎を直視することが出来ず、顔を背けてヘルメットをかぶり、無言のまま荒々しい運転で走り去ってしまう。
「やる」という語尾を聞いて、当方がぱっと思いつくのは「駆逐してやる!」と「二人同時に愛してやる」であった。剣崎は前者のような気持ちで、あくまでも決意表明として「守ってやる」と言う言葉を使ったように見える。だが、始にとっては「俺がこの手で守ってやる(だから心配はいらない)」とまるで後者のようなニュアンスで聞こえたのではなかろうか。自ら「俺には関係ない」と突き放した直後でもあり、もはや始はすごすごとその場から退散するほかない。
それでも天音の誕生日パーティーを外から見守り(そして自分の行動の訳を理解できず)、ギャレンに谷底へ突き落されても瞼の裏に天音を思い浮かべて静かに目を閉じる始。ただの「伝説のアンデッド」としてではない、「相川始」としての戦いが、きっと彼にもあるはずなのだ。伊坂とギャレンの二人がかりで相当食らっていたようだが、ダメージがそこまで深刻でなければいいが……。
今回のここが剣崎
なんだかずっとご機嫌な印象。随分無邪気な笑顔を見せるなあ。
「自分も橘みたいに愛されたい」とぼやく虎太郎に「小太郎のことは世界中の牛乳が愛してくれてる」と的外れな慰めをするのは相変わらずだが、天音の誕生日プレゼントを用意し損ねて「こんど」のメモを渡すのはちょっと機転が利いていてなかなかやりおる。そして「ありがとう」と笑顔で返す天音ちゃん、いい子過ぎでは?
今回のここが橘さん
小夜子の情報によると、例の藻は一時的に中枢神経を激しく刺激し、やがては細胞や神経を破壊する代物らしい。BOARDの情報にも記載があり、古代生物たちは生存をかけての殺し合いの際、その藻のある湖で闘争心を高めていたのだとか。脱法もずくではなく古の民間療法だったか……。
かつて橘が「飲み込んだ」と言っていた、パズルの最後の1ピース。診察室でまたパズルを組み立てていた小夜子は、そのピースが室内にあるのを発見する。本当に飲み込んでしまえばパズルはいつまでも完成せずに、ずっと安らかな時間が流れ続けていたかもしれなかったのに。ピースが見つからないことに対しての即興の出まかせだったのか、それとも橘が自分でそこにピースを隠したのか、それは分からないが、橘が嘘をついていたのは確かだ。恐ろしい破滅のイメージに悩まされ、小夜子に安らぎを求めながらも、その時間が長くは続かないことを、他でもない橘自身が一番知っていたのだろう。それでも、こんな突拍子もない小さな嘘をついてしまう橘さんの弱さがいじらしい。
第14話
小夜子さん、まじか……。
「なんでぇ?」が口癖の小夜子さん。急変した橘の態度に翻弄されつつも、一生懸命に彼を思い、自分にできる伝手を使って行動を起こしていた。それもひとえに、橘とふたりで生きていきたかったから。道端の花みたいにひっそりと、でも寄り添って、小さいけれど美しい彩りを咲かせて……。
花火のように大輪の花を咲かせたい橘とは、確かに最初から生き方の方向性が違っていたのかもしれない。だが最終的に、カテゴリーAを倒した橘は伊坂に反逆の牙を向ける。花火は一瞬夜空を彩って散っていくが、道端の花はいつ見ても静かにそこに存在し続ける。怪しげな植物の力とは言え成功体験を積み重ねたことで、戦闘による快楽に身を委ね続けるのではなく、我が身を振り返って未来のことを考える余裕が生まれたのだろう。
だが、やはり伊坂は強い。しかも前話で小夜子が指摘していた通り、植物の効果は一時的である(きっと橘宛の留守電にも入れていたはずだ)。結局カテゴリーAのカードは伊坂に持ち去られる。駆けつけた剣崎にも何も言わず、泣きそうに歪めた顔を背けながら、橘はふらふらとその場を去る。そしてその満身創痍の状態で、瀕死の小夜子を見つける。
新たなライダー=過酷な運命の犠牲者を生み出す手助けをしてしまったこと。やり直して未来へ進もうと思った相手を目の前で失ったこと。橘の身を引き裂かれるような慟哭が辛い。それら全ては、自分の選択の結果なのである。たら・ればをいくら積み重ねても、失われた命は戻らない。奪われたカードもまた、もはや戻ってはこないだろう。
散々甘えられて、ひどいこともたくさんされたのに、小夜子は橘をなじらない。せいぜい「なんでぇ?」とやり場のない感情を漏らすくらいだ。今際のきわでもそれは変わらない。パズルの嘘を「飲み込んだなんて冗談ばっかり」と優しく許し、小夜子は最期に「ごめんね、橘くん」と呟いた。
橘がこんなことになる前、いち研究員だったころならば、きっと小夜子も「花火のように生きたい」と願う橘を受け入れ、その傍らにひっそりと寄り添うような未来を紡いでいくことが出来ただろう。だが、幻想に苦しみ、命を粗末にして戦い続けるような橘を見ていられず、彼女は自分の「道端の花のように生きていきたい」と言う願いを彼に伝える。小夜子の最後の「ごめんね」は、自分の生き方を橘に強いたことへの懺悔であろうか。でもそのおかげで橘さんは目を覚ますことが出来たんですよ。あなたが謝ることはひとっつもないんですよ……。
今回の始さんと剣崎くん
谷底に落ちた始を見つけ、廃屋で介抱する剣崎。わざわざ20キロも離れた薬屋まで遠征し、包帯だのなんだの揃えてきたらしい。
「目の前で人が倒れてるの、見捨てるわけにはいかないだろ」と言った舌の根も乾かぬうちに、「あれか? 人間の料理は食べないとか」「俺、普通の薬使っちゃったけど、大丈夫なのか? 人間の薬で、あの緑の血を……」などと言う剣崎。一見ヒトらしく見える始に好意のようなものを抱きつつはあるものの、やはり根柢のところでは人間とアンデッドをきっちり線引きしている。当の始も出ていくときには「人間の薬が効いた」なんて言っているが……。片方が作った壁ではなく、互いに壁を作り合っているような感じだ。
一飯の恩義とばかりにカテゴリーA豆知識を教えてくれる始、壁を壁と割り切ったうえでだいぶ歩み寄ってくれている様子である。もののけ姫か?
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