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【555】第41~42話

第41話「捕獲開始」

 警察、動き出すの巻。ところで「声の出演 松田悟志(友情出演)」が分からなさ過ぎてググってしまった。あの呻いているオルフェノクか!

 人間として・ファイズとして戦うと覚悟を決めた巧は洗濯舖に帰ってくる。出迎えた啓太郎のはしゃぎようは半端ではない。「俺たっくんのこと怖くないから、こんなことだって、こんなことだってできるんだから!」と巧の頬をぐりぐりしたり、後ろから飛びついてみたり。二人きりのボートで震えながら弁当を差し出していたのが嘘みたいなスキンシップぶりである。「たっくんのこと怖くないから」という台詞は捉えようによってはだいぶ無神経だが、そのまっすぐで空気を読まない物言いこそが啓太郎である。木場に電話をかけて回りくどく帰宅を伝えている巧の背中にかじりつき、会話に割り込みさえする様子を見ていると、本当に「怖くない」んだろうなあとしみじみ思う。よかったねえ、啓太郎。
 ところが一転、木場たちと「パーっと遊びに」出かけた遊園地で、ひそかに思いを寄せていた結花(長田さん)が母親のごとく海堂の世話を焼いているのを見せつけられる啓太郎。ストレートに「大好きです!」と言い切られてしまえば、もはや口をはさむ余地もない。傷心の啓太郎は思い出したように”メル友の”結花へメールを送る。切り替え早いな! 長田さんに恋愛感情を抱いてしばらく経つし、メル友の結花への恋愛感情はさすがにもう風化したのか? なお、返信メールの「強引に手を握れ」というアドバイスを即座に実行した結果、長田さんとの決裂は完全なものに。かわいそうにねえ、啓太郎。

 啓太郎と真理は巧の帰還を喜んでいるが、面白くないのが草加である。自分自身居候の身では、巧との一つ屋根の下も受け入れざるを得ないが、啓太郎と再会のやりとりをしている巧を無言で押しのけて部屋に入る様子など、どこからどう見ても不機嫌だ。遊園地にはついてきていないのかと思いきや、つまらなそうな顔に帽子を載せて、テーブルの下で巧の足を蹴るという地味な嫌がらせに精を出している。「いいなあ、オルフェノク同士ってのは理解しあえて。羨ましいよ」……嫌味にいまいちキレが無いのは、巧と木場が「理解しあ」っているテーブルに真理も座っているからだろう。
 そんな草加だが、結花がオルフェノクに襲われていればちゃんと助けに入ってくれる。オルフェノク同士潰しあえ、という発想になってもおかしくないところ、流石にさっきまで一緒にいた(そして真理の友人でもある)結花を見捨てるのは気が引けたか。というか、いまのところ無害なオルフェノク(結花)よりもさらに危険度の高そうなオルフェノクを見つけて、そちらを倒すのに夢中になっているのだろうか。

 海堂のことになると途端にどこまでも甲斐甲斐しくなる結花、今日は創才児童園へ持っていくためのクッキーを焼かされている。中二階から手すりをどんと飛び越えてキッチンにショートカットしてくる海堂の格好良さ! よっぽど待っていたのか! しかしクッキーはそもそも甘いものだし、虫歯になるかどうかは食べた後の歯磨きの問題だぞ!
 クルマ係とお手伝い係を兼ねた啓太郎を含め、海堂たちは三人で園に赴く。啓太郎たち、もとい海堂が一人で助けた照夫少年は、今日もみんなの輪には加わらず、ぽつんとひとりでいじけている。見かねた啓太郎がクッキーを持って行っても、逆鱗に触れてなんでもかんでも投げつけられるだけである。抱きかかえるようにして止めようとした結花も、強く振り払われ、地面に投げ出されてしまう。
 だが、結花は諦めない。すぐに立ち上がり、スカートをぎゅっと握りながら何度も強く呼びかける。
「照夫くん、やめなさい! 照夫くん!」
 名前を何度も呼ばれ、また結花の形相を見て、照夫は毒気を抜かれたようにおとなしくなり、悲しそうに視線を落とす。
 照夫は確かに不幸な子だが、結花もかつては不幸な子どもだった。学校でのいじめや妹からの搾取もあったが、あの絵に描いたように幸福なリビングで、存在自体が無いもののように無視されていた結花の姿は衝撃的であった。誰からも相手にされない悲しみを結花はよく知っている。そして逆説的に、誰も相手にしたくないようなやけっぱちな気持ちもわかるだろう。
 事故で家族を亡くし、海堂に「何故助けた」と食って掛かった照夫。かわいそうな子どもとして腫物の様に遇されることはあっても、あんなに真剣に叱られたのはもしかして久しぶりだったのではないだろうか。「困った人は困っている人」という有名な言葉を思い出す。うまく表現が出来ていないだけで、照夫もまた「困っている人」なのだ。

 児童園を後にする結花たちを見つめる、怪しい人影がある。沢村刑事である。
 どこかみうらじゅんに似た怪しげな警察関係者・南。当初は添野たちの捜査をストップさせに来たはずだったが、沢村が見つけた過去の結花の写真を見たことで、状況は一変する。……部員全員を殺しても、写真や記録までは消し去れない。忘れたい人間時代の記憶に足を引っ張られるのは、結花にとっては報いのようにも見えてくる。
 沢村に結花を尾行させながら、南は怪しげな階段を地下へ地下へと下っていく。そこに有ったのは小さなラボで、一体のオルフェノクが赤く透き通った液に漬けられ、「サンプル」として研究されているようだ。スマートブレインの施設とはどうも雰囲気が違うように見える。あれだけおかしな事件が起きているのだ。添野と沢村が気づくまでもなく、警察上層部は上層部で独自にオルフェノクを追っていたのだろう。添野は自分たちの捜査が中断されることをスマートブレインの圧力ではないかと勘繰っていたが、どちらかというと警察内部の思惑に依るのかもしれない。

 スマートブレインの村上社長はバー「クローバー」にいる。冴子たちの話によると、ファイズ・カイザ・デルタの三人と同時に戦ったさきの出来事は、北崎を大いに落ち込ませているようだ。といっても、琢磨と冴子が1対1で辛くも難を逃れたのに対し、北崎は当初はデルタ、あとからファイズとカイザが加わって3対1での戦いであった。頭数が少ないのだから劣勢やむなしとも思うが、いつでも自分が一番強いと思っていた北崎にとってはプライドが傷つけられる撤退となったらしい。北崎を抱えて逃げ出すとき、琢磨はわざと手を滑らせて北崎の身体を地面に転がす。しらじらしく言い訳する琢磨に北崎は一発パンチを入れるが、砂化したのは頬のほんの薄皮一枚だけだ。北崎の精神が乱れたり体力が弱っていたりすると、彼の異能力も弱まるのだろうか。先日うまくダーツで遊べずにイライラしていたのも心理的な原因か? それを見越している様子の琢磨はかなり余裕綽々、してやったりという表情。後でしっぺ返しに遭わなければよいが。
 村上来訪の目的は、ラッキークローバーの欠員を補充することである。社長、当のラッキークローバー構成員たちよりもよっぽどこの四人組に執着しているようだ。冴子たちはひとりかけたところで特に気にしていないが、社長はいつでも誰かを新たに推薦しようともくろんでいる風に見える。今回選ばれたのはまさかの長田結花。スマートブレインが用意した家に住んでいるのだから、見張られているのは当然と言えば当然ではあるか。木場や海堂とは違って結構カジュアルに悪者退治をしている結花のことを、社長は高く買っているらしい。
 さて、冴子がけしかけたオルフェノクに襲われ、結花はやむなく変身して応戦。オルフェノク自体はファイズとカイザが引き取ってくれたが、結花のその変身姿を沢村刑事がしっかり目視してしまった。これにより、結花=オルフェノクは警察の知りうる情報となり、何台ものパトカーや機動隊員が結花を追いかけ、発砲しながら追い詰める。これも村上社長のシナリオなのか? 出し抜かれることを何よりも嫌いそうな社長だし、添野と沢村が会社までやってきた一件もあるので、警察の動きはチェックしていそうなものだが……。


第42話「折れた翼」

 結花の静かなる決意とクラブオルフェノクの回。

 人間とオルフェノクとの折り合いのつけ方について、今まで40話ほどかけて巧は考えぬいてきた。彼の辿り着いた答えは、人間として・ファイズとして戦い、生きていくという覚悟である。例え身体がオルフェノクであっても、人間の心を持ちさえすれば、人間として生きていくことが出来る。木場や結花、海堂がそうであったように。
 だが、それはあくまでも強者の論理だ。
 木場と巧に呼び出された沢村刑事は、二人がオルフェノクだと聞いて思わず椅子ごと後ずさっている。うららかな昼間の喫茶店、間にはテーブルもはさんでいるし、木場たちの見た目が変わっているわけでもない。ただ、結花が変身する様子を目の当たりにし、実験室でクラブオルフェノクの姿も見せられている沢村にとっては、「オルフェノクである」とただ自己申告されただけで、相手を警戒の対象にせざるを得ない。目の前にいるのが人間にとって無害な良いオルフェノクなのか、それとも悪いオルフェノクなのか、パッと見ただけでは判断などつきようもない。ならば最悪の想定に合わせて動くのは刑事として当然の判断である。
 人間はオルフェノクに対して常に弱者だ。強者は弱者に歩み寄ることが出来るが、弱者が強者に対して取れる手段は二つ。すなわち、おもねるか抵抗するかのどちらかである。そして警察は後者を選んだ。
 南らの最終目的は、オルフェノクを「オルフェノク」として定義することである。「オルフェノクに人間性を認めてしまうと、事態は複雑になる一方です」と南は言う。そこで南たちは「オルフェノクから人間を取り除く」。取り除くと言っても分離する訳ではなく、むしろその逆だ。オルフェノクの硬い外皮の中に彼らの「人間」を押し込め、二度と外に出てこられないようにする。そして人間の姿に戻れなくなったただの怪物を、怪物として処理する。こうすれば、事態の複雑さを害獣駆除のカテゴリにまで落とすことが出来る。

 オルフェノクが人間でありたいと希い、それを疎まれる一方で、人間たちはオルフェノクになることを当然忌避している。
 啓太郎の「俺たちだっていつか(オルフェノクに)なっちゃったりして」という何気ない発言に、真理はひとり思い悩む。木場たちのように自然発生的にオルフェノクとなる例は稀だが、真理たち流星塾生はスマートブレインによって「オルフェノクの記号」を埋め込まれた身である。身体が意図せぬ変化を起こす可能性は、他の人間よりもずっと高いはずだ。だが、草加はそれを否定する。スマートブレインの実験が成功していれば、自分たちは澤田と同じタイミングでオルフェノクになっていたはずだというのがその言い分だ。どうやら草加は記憶を操作される前にひとりスマートブレインの研究室から逃げ出していたらしい。……しれっとした顔でとんでもない嘘をつけるのが草加雅人という男なので、この発言もなんだか怪しいような気がしてきた。ここにきて嘘をつく意味もあまりないだろうし、きっと事実なのだろうが……。
 ともあれ、草加は真理に宣言する。
「俺たちは人間だ。ずっと、人間のままだ」
 その言葉に、真理は肩の荷が下りたように息を吐く。視線をそらしながら、独り言のように呟く。
「あたし今、ほっとしてる。サイテーだね、あたし」
 ここですぐに自己反省できるのが、真理の真理らしいところだ。自分のことだけでなく、周囲の大切な人のことを常に気にかけ、当人がその場にいなかったとしてもないがしろにすることはない。
 啓太郎なんかは巧や結花がオルフェノクだと知ってもなお、道すがらオルフェノクを見かければ(自分が襲われたりしなくとも)すぐにライダーホットラインへ通報してしまうのにだ。「あのオルフェノクも元は人間で、何か事情があって歩いているのかもしれない」とは啓太郎は考えない。多分、彼はオルフェノクだ人間だとごちゃごちゃ悩んだりしないのだ。啓太郎が見ているのはあくまでも個人としての巧や結花である。もともと大好きな人なのだから、人間だろうがオルフェノクだろうが大好きであることに変わりはない、というのが啓太郎の辿り着いたスタンスなのだろう。出発点がまるで違う。

 結花と警察とのひと悶着は、木場家に重たい影を落としている。
 木場は自ら警察に出頭することを考えている。きちんと話せばわかってくれるだろう、と彼は言うが、性善説に基づく甘い考えだなあと思う。先にも述べた通り、彼は「強者」なのだ。いつものバッティングセンターでその決意を表明する木場に、巧は自分も一緒に行くと言う。互いに、止めても聞くような相手ではないと分かっている。説得する側・される側ではなく、あくまでも自由意志で二人が動いているのが対等な感じで良い。
 海堂は旅に出るという。サインの練習帳もしっかり荷物に詰めて、さああとは耳かきさえ見つかれば準備完了というところで、思い切ったように口を開いたのは結花である。一生に一度のお願いだからデートをしてほしい、と彼女は言う。こんな時に、と海堂は一蹴する。
 一生に一度のお願いに失敗した結花は、ひとりバスに乗っている。メル友の啓太郎に送るメールは、昔語っていたような夢の話だ。大好きな人と手を繋いで、なにがあっても、どこまでも一緒に行く夢。啓太郎の返信に対し、いとまごいの言葉を返したところで、彼女は目的地にたどり着く。バスを降りた目の前に聳え立つのは警察署の建物である。
 かつて自らの苦しみを少しでも癒すために、啓太郎とメールを重ねていた結花。今日メールをしたのも、くじけそうな心を励ますためだ。幾ら身を守るためとはいえ警察に手を出してしまったのは事実だし、海堂も自分のせいで部屋を出ていかなければならない。大の大人の木場でさえ、出頭に当たって巧に胸中を吐き出す場が必要だったのだ。まだ高校生でしかない結花がひとりで思い詰めるには、あまりに過酷な状況だろう。
 もしあの時海堂がデートを了承していたら、とふと考えてしまう。彼女がメールに書いた「夢」のように、ふたりで手を取り合って、警察になんか行かないで、どこまでも逃げ延びることができただろうか。

 自首した結花を待ち受けていたのは取調室でも留置所でもなく、機動隊員を満載にした護送車であった。引っ立てられるように連れていかれたのは例の研究室で、ドアの向こうでは南が後ろ手を組んで待ちかねている。
 「あなたは人間に戻ることが出来る」と告げられ、結花はいかにもな手術台に麻酔もなしに括りつけられる。考えてみればオルフェノクも改造人間なのだなあ。いよいよ実験を開始するにあたって、南は微妙に言葉を変えている。「被験者は二度とオルフェノクになることはないはずだ」……そもそも、オルフェノクをオルフェノクたらしめんとしている南が「人間に戻ることが出来る」なんて言うのがすでに違和感なのだが、「二度とオルフェノクになることはない」ことと「人間に戻る」ことって本当にイコールなのだろうか?
 だが、その疑問の答えは謎のままである。苦しむ結花の声に反応し、別の実験室に捉えられていたクラブオルフェノクが乱入、彼女を救い出したのだ。謎の液体に漬け込まれ、人間の姿をほぼ失ってもなお、「苦しむ者を助けたい」という心は失われていない。あたかも人間らしい、人の心を持った行為のように見えるが、南たちからすれば「オルフェノクがオルフェノクの仲間を助けようとした」というだけのことである。草加が巧に対してしきりにちくちくトゲを刺すように、人間から見れば人間とオルフェノクは完全に断絶しており、そこに和解の余地はないのだ。
 駆けつけた木場と巧に結花を託し、クラブオルフェノクはふらふらとその場を離れていく。だが、啓太郎の通報により駆け付けた草加と三原がこれに応戦。追いついた巧はなんとかクラブオルフェノクを逃がそうとするが、その行為がまさに「オルフェノクがオルフェノクの仲間を助けようとした」展開そのものである。激昂するカイザがファイズに殴りかかる後ろで、クラブオルフェノクは静かに炎を上げ、灰となってしまう。

 さて、その三原だが、たまたま草加のところに来ていたのは挨拶の為であった。退院してきた里奈とふたり、短期のアルバイトをするのだという。バイト先は創才児童園。スマートブレインが運営し、鈴木照夫少年が住んでいる、あの施設だ。またしても不穏の気配。

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