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【555】第47~48話

第47話「王の出現」

 今回も周囲に翻弄され続ける海堂である。さきには「働く気は無いけど住ませろ」などと照れ隠しの言動をして洗濯舖を叩き出されていたが、どうやらその後啓太郎とは仲直りをしたらしい。しかもあれだけ拒否されていた照夫ともすっかり打ち解け、一緒にかくれんぼまでしているから驚きだ。そっとトイレの個室にこもり、「ここに隠れてりゃ見っかんねんだ。いいか、声だけ出すなよ」と頭をごしごし撫でると、照夫も笑顔で頷く。……だが、トイレに入ってきた真理にあっけなく見つかり、ヘンタイ扱いされて再び容赦なく叩き出されるのであった。そりゃトイレに人がいたらびっくりするわ。
 追い出された海堂が次に姿を現したのは、スマートブレイン社の前である。スマートレディに半ば無理やり連れてこられたらしく、「青いぞ!」と捨て台詞を吐いてどかどか車を降りるのだが、そこに佇む木場の姿を見つけると態度は一変。「今までどこで何やってたんだよ」「寂しかった」と情けなく肩を揺らす姿はいくら海堂といえどあまりにもカッコつけずにあけっぴろげで、ああよっぽど寂しかったんだなあと思わされる。新たに託されたベルトを手に取る嬉しそうな表情よ! 「何が何だかさっぱりわからんが、俺に任せとけ」「俺もな、最近な、お前の理想がようやくわかってきたとこなんだ」。人間でいたころはとにかく自分の才能にだけ集中して周りへの気配りに欠ける面があり、オルフェノクになってギターを捨ててからは行き当たりばったりに楽しさを追い求めて生きてきた海堂。照夫と出会ったことが、海堂に新しい生きる意味をもたらした。ただ一度気まぐれで命を救うだけではなく、その後もずっと気にかけて、見守り続けたいと思う気持ち。
 そのようにしてライオトルーパー小隊に加わった海堂は、黒スーツに黒サングラスというキメキメの格好に身を包み、木場の理想=人間を守るためと信じてファイズに攻撃を仕掛ける。この後先考えてない感じが「何が何だかさっぱりわからん」なのだろうが、その根底には「木場を信じておけば間違いない」という揺るがぬ信頼があるのだ。偶然のような成り行きで出会い、一緒に暮らしていたという間柄だったのに、随分と仲良くなったものである。

 だが、海堂の信じる「木場の理想」は、彼が思っているような内容ではない。むしろその逆、人間よりもオルフェノクを守ることが今の木場の目的である。
 花形の導きでスマートブレインの社長に就任して、木場はどんどん孤立していく。結花はとうに命を落とした。草加と三原とはそもそも仲が良かったわけではないが、こちらが立場を明確にしたことにより明らかな断裂が生まれてしまった。友である巧の目を覚まさせることにも、木場は失敗してしまう。ただし、巧の「人間を守り、人間として生きる」というスタンスは木場にとってもわかりきったものであった。何を隠そう、巧にそんな生き方を勧めたのは、他でもないかつての自分なのだから。
 オルフェノクの王を倒すという火急の目的のため、木場は海堂までも利用することを決める。「お前ぇのことだ、人間を守るために戦っちゃうんだろ」と嬉しそうに指摘する海堂に、木場は曖昧な笑みをもって応える。巧や草加たちには本当の理由を明かせても、海堂にはそれをあえて告げない。トリックスターである海堂の動きは未知数であり、伝える情報を制限した方がこちらの思った通りに働いてくれる。そして何より、海堂がひとに頼られると嬉しくなってつい張り切り過ぎてしまう性格であることを、木場はよく知っている。……誰もいなくなったマンションの一室に飾られたままの、木場・結花・海堂の3ショット写真が寂しい。あの幸せな時間は二度と戻ってこない。ほかならぬ人間の手によって、彼らの平凡な暮らしは破壊されてしまったのだ。

 スマートブレイン前社長である村上は、この度とうとう華々しく散る。比喩ではない。カイザの執拗な攻撃によってジェットスライガー(スゴイツヨイバイク;公式図鑑でやっと名称を知る)を破壊され、変身が解除したところですかさず三原にデルタギアを奪われる。オルフェノクの姿になって応戦するが、トリプルライダーキックを受け、強く手をもみ絞る悔し気な素振りを見せた後、薔薇の花びらを周囲に撒き散らして姿をくらませるのであった。……余談だが、このトリプルライダーキックがカッコいい。三角形を描く様に立つライダーたちと、その中心にいるローズオルフェノク=村上。ファイズ・カイザ・デルタの順に「エクシードチャージ」の音声が鳴り響き、ポインターがまるでローズオルフェノクの動きを封じるかのように三方向から射出される。そして息を合わせたわけでもないのに三ライダーは同時に飛び上がり、それぞれキックを敢行して対面に着地する。なまじタイミングが合いすぎると空中衝突してしまいそうなものだが、敵をすり抜けるように食らわせるファイズシリーズのキックであるがゆえにこのメチャメチャかっこいいキメワザが実現可能となったわけである。なんだかんだ息ぴったり。草加は今日も巧へちくちくと嫌味を述べていたが、こと戦闘に関しては協力せざるを得ないことが分かっているがゆえに、日々の暮らしではささやかなうっぷん晴らしをしてしまうのだろうか……。
 閑話休題。トリプルライダーキックによって息も絶え絶えのローズオルフェノクは、命からがら逃げだしはしたものの、とうとう堤防のコンクリートに倒れてしまう。変身がとけ、人間の姿に戻った村上が見たのは、目の前に立ち尽くす照夫の姿。見開かれた大きな目は、思わずぞっとするほど冷たい。
 照夫の影がすっと伸び、成人男性の姿が浮かび上がる。さらにその影は形を変え、オルフェノクとしての顔を明らかにする。ゆらりと蜃気楼のように立ち上った「王」は、大きな二つの目に小さな顎、二本の短い触角を有している。視聴者にとってはどうしたって馴染みのある、いつかどこかで見たようなバッタ顔だ。いやがおうにも「オルフェノクの王」の特別感が増すデザイン、というかモチーフである。
 笑みを浮かべた村上は自ら両手を広げ、喜んで王の糧となることを選択する。もともとは王の力を手玉に取ろうとしていた村上だが、いざとなれば自らその身を差し出すことも覚悟の内だったか。社長を解任され、ライダー達にもこてんぱんにのされてしまった今、オルフェノクとして種族のために最後に出来ることは、もはやこれくらいしか残されていなかったのかもしれない。
 炎とともに凍り付いたような村上の死体に、花形は軽く爪先をぶつける。死体は見る間に灰となり、跡形もなく消え去る。……さきに「王」が食ったオルフェノクの死体は、酸素ボンベで殴ってもびくともしないほど固く変性していた。「王」の力が強まったために死体も残らなくなったのか、それとも花形が敢えて村上の死体を処分したのか。ラッキークローバーにはあっさり村上の死を伝えていたので、その生死を隠匿する必要もなさそうだが……。


第48話「雅人 散華」

 この48話なのだが、実は今回更新分の本編を見る前に、動画リストからサブタイトルだけを目撃してしまっていた。ええっ、草加死んでしまうの!? そんな某☆漫☆画みたいなサブタイトルのつけ方ある!?

さんげ【散華】(略)②花と散ること。(戦死を美化した表現)

三省堂『新明解国語辞典』第五版

 思わず辞書を引いてしまったがそれ以上の意味もそれ以下の意味もなく、覚悟を決めて再生ボタンを押す。だが、サブタイトルの印象以上に、その最期は壮絶なものであった。R.I.P。

 話は前回の続きから。真理と照夫を連れて配達に出た巧は、ラッキークローバー及び海堂率いるライオトルーパー隊に襲われる。真理たちを逃がし、多勢に無勢にファイズ。背の高い草むらに逃げ込んで身を隠そうとする真理たちだが、そこにトルーパーの一人が無慈悲に近づいていく。幸い草加と三原が駆け付け、大事には至らず済んだようだ。
 戦いを終え、一人地下道を歩く草加。彼は先日から、時折発作のように訪れる激しい頭痛に悩まされていた。耐えきれず昏倒し、目を覚ますと、そこは見覚えのある手術室である。かつて同窓会の夜に運び込まれ、「オルフェノクの記号」を埋め込まれた、あの憎むべき部屋だ。……そこにやってきた花形に、草加は激しく言葉をぶつける。そして、いくつかの情報を得る。
・ひとつ、流星塾は花形がオルフェノクの王を探すために設立した機関であること。
・ひとつ、同窓会の夜の襲撃事件は花形の意思ではなく、社内にいる一部のオルフェノクが独断で行ったということ。
 社内の統制がとれておらず、社長肝いりの流星塾生たちがいとも簡単に命を狙われるような状況下だ。花形が自ら行方をくらませたのも納得できる。そして花形は、塾生たちに三本のベルトを送った。かつて王を守るために作り上げられたファイズ、カイザ、デルタのベルト。さきにトルーパーのベルトを指して言ったように、守るための武器なら、倒すことも出来る。
「私は賭けてみたかった。幼いころから、辛い境遇を耐えてきたお前たちの、強さと優しさに」と、花形は言う。
「私は人間がオルフェノクの力に飲み込まれ、人としての心を失っていくのを何度も見てきた。そして悟ったんだよ、オルフェノクは滅ばなければならない存在だと」
 過酷な運命を切り抜け、九死に一生を得た流星塾生たちは、人間力とでも言おうか、生き延びる力に長け、その人格も優れている、と花形は考えているようだ。人としての心を失うオルフェノクを倒すには、人としての心を備えた存在が最も適任である。
「なら滅べばいい。俺の手で、あんたを……!」
 アタッシェケースを手繰り寄せる草加だが、彼を再び激しい頭痛が襲う。
・ひとつ、草加の頻発する頭痛は、「オルフェノクの記号」が彼の肉体から消えつつあるためであるということ。
 草加が今まで自在にカイザギアを扱えていたのは、彼の体内の「記号」が彼の肉体とある程度順応していたからだという。最初期にカイザギアを使って命を落としていた塾生たちは、恐らく草加程順応がうまくいっていなかったということなのだろう。
 だが今、草加の体内にある「記号」は薄れ、消えかけている。平時であれば喜ばしいことだ。オルフェノク化しかねない因子が完全になくなり、手術を受ける前のただの人間と同じ状態に戻ることができるのだから。だが、カイザギアを用いてスマートブレインをぶっ潰したいと願う草加にとって、それはあまりよくない知らせである。花形は「もう変身しないほうがいい」と草加に忠告するが、草加にはカイザの力が不可欠なのだ。

 花形と三原の通話、また木場と花形のやり取りを盗み聞きした草加は、花形が真理・里奈と会うつもりであること、そして照夫こそがオルフェノクの王と目される存在であることを知る。
 まず草加が向かったのは、真理たちとの待ち合わせに急ぐ花形のもとである。バイクで道をふさぎ、草加は花形を睨みつける。
「真理には会わせない。あんたに会う資格はない……!」
 真理自身が花形に会いたがっていることはよく知っている草加だが、それでもここを通すわけにはいかない。花形が流星塾を立ち上げたことは、真理を救いもしたが、それを上回るほどたくさん傷つけもしたのだ。変身してでも花形を食い止めようとする草加に、花形は「私と戦う必要はない」と左手を挙げて見せる。真っ黒に変色したその手から、とめどなく灰がこぼれていく。崩壊はすぐに全身に広がり、穏やかな顔が色を失ってひび割れていく。
 花形が木場に己の状態を語るのを、草加はちょうどついさっき聞いていた。人間の進化した姿であるオルフェノクは、しかしその進化の急激さゆえに、彼らの肉体へ大変な負荷を与える。花形はそれを「死に至る病」と称した。特効薬はいまのところ存在しない――唯一、オルフェノクの王の存在だけが希望をもたらしてくれる。
 あっという間に一山の灰となって崩れた花形。草加は「父さん」と叫び、駆け寄る。真理や里奈、三原が流星塾での「昔のままの父さん」「優しい父さん」の思い出を大切にしているように、草加の中にも花形との捨てきれぬ思い出があったはずだ。いくら憎しみを込めて「お前」と呼びつけ、糾弾しようとも、いざというときには慣れた呼び名が口を突いて出てしまうものだ。
「父さん……俺は、生きる。生きて、戦う……!」
 掌の灰が、風に吹かれてさらさらと滑り落ちていく。ただやみくもに戦うのではなく、「生きて」戦うことを草加は誓う。死をもたらすカイザギアをこれ以上使わなくても、人間としてオルフェノクに対抗する道はなにか存在するはずだ。なにせこちらは敵のウィークポイント=照夫の存在を知っている。三原たちとも連携を取り、うまく立ち回っていけば、あるいは……。

 啓太郎から照夫の場所を聞き出し、急ぎ向かおうとする草加。だが、一本の電話がそれを阻む。電話の相手は木場勇治。淡々と告げられたのは、真理を預かったという一言。
 指定された海岸に急行する草加。デルタギアにちらりと目をやり、余裕の表情を浮かべる木場の後ろには、ラッキークローバーの三人が粛々と歩みを進めている。迷わずベルトを装着しようとして、草加の脳裏に花形の忠告がよぎる。
「このまま変身を続ければ、お前自身が滅びることになるだろう」
 ……さきほど、生きて戦うと誓ったばかりの草加である。だが、強敵ラッキークローバーが3体も揃っているこの場面で、木場の手から真理を無事救い出すためには、どうしてもカイザの力が必要だ。

 我々は知っている。目的を果たすためなら、草加雅人は平気で嘘をつけるのだ。
 たとえその相手が自分自身だったとしても。

 一つ一つ噛みしめるように、三つのボタンが押しこまれる。上画面を回転させる金属音は、迷いを断ち切るように響く。「変身!」力強い掛け声とともにカイザフォンをベルトに差し込んだ草加は、ゆっくりとその端末を横に倒した。光のラインが体の表面を走り、カイザの装甲を形作る。
 敵に向かって歩き出したカイザは徐々にその歩調を速め、砂浜を蹴立てて走り出すと、勢いをつけて宙に飛び上がった。片膝を高く持ち上げたその姿に、恐れや不安は微塵も感じられない。
 刃を伸ばしたブレードモードのカイザブレイガンで、カイザは三大のオルフェノクと相対する。一合、二合と打ちあっている間は良かった。だが、グリップを握り締め振り上げた右手から、不意にさあっと細かな灰が零れだす。
 思わず武器を取り落としたカイザ。その隙を見逃さず、相手は大ぶりの攻撃を何度も入れてくる。防戦一方のまま、ついにはドラゴンオルフェノクの一撃でカイザは弾き飛ばされ、変身も解除されてしまう。

 変身が解けた途端、急に画面の彩度が下がり、全体的に黒っぽくなったような印象を受ける。『アマゾンズ』でもないのにおかしいなと目を凝らすと、それは草加の顔色が悪くなっているせいだと気づく。その証拠に、転がったカイザドライバーや草加の腕時計は、その色を保ったままだ。
 ドライバーに伸ばした手から、溢れるように灰が零れ落ちる。忌々しげに己の手を睨みつける草加。その視界が不意にぼやけた瞬間、ドラゴンオルフェノクの砲撃がすぐそばに着弾する。吹き飛ばされた草加はよろよろと立ち上がると、まるでベルトに背を向けるように、足を引きずって歩き出す。もしかするともう、十分な視力すら無いのかもしれない。
 草加の手はさきの花形のごとく真っ黒に染まり、一度段差に足を取られてしまえば、倒れたままでもう起き上がることも出来ない。だが、それでも草加は「死んで、たまるか……」と呟く。彼は生きて戦わねばならないのだ。それが大切な「父さん」との約束なのだ。
 目を覚ました真理が、懸命に草加の名を呼び、彼を探している。草加は大儀そうに首をもたげるが、真理は岩間に隠れたその姿に気づかず、走って行ってしまう。
「真、理……」
 彼のもとに静かに歩み寄るのは、見慣れた黒と黄色の装甲である。カイザは左手一本で草加の首を持ち上げると、そのまま親指をちょいと動かす。
 骨の砕ける音。
 どさりと投げ落とされた彼の身体は、その目を見開いたまま、見る間に灰になっていく。押し寄せる波が通り過ぎた後には、もうそこには何も残されていない。

 花形の予言通り、草加はカイザによって命を落とすことになった。木場がわざわざ変身してまで草加にとどめを刺したのは、普段ライダーによって命を奪われるオルフェノクたちの意趣返しをしようという趣向だろうか。あるいはオルフェノクとして草加の命を奪うことで、草加がオルフェノク化して蘇ってしまうことを恐れたのかもしれない。「記号」を埋め込まれている草加は他の人間よりもオルフェノク適性が高そうだし。
 それにしても、「散華」だなんてとんでもない。長い目で見れば「カイザギアを用いてオルフェノクと戦い続けたことによる戦死」と言えなくもないだろうが、此度の死にざまだけを取ってみれば、「卑劣な罠にはまって念入りに殺された」と称した方が正しいだろう。せめて真理を守ってラスボスにぶち当たり、華々しく散ったのであれば「散華」という表現もぴったりきただろうに! どちらかというと、前回花びらになって散ったのは村上の方である。
 最期、灰になっていく草加が目を開けたままであったことも特筆すべきポイントだ。よくドラマや映画で、亡くなったばかりの遺体の顔に手をかざし、瞼を閉じてやるような描写を見かける。あれは新仏への弔いの心の表出であり、安らかに眠ってほしいという気持ちの表れである……と自分では解釈している。瞼を閉じてくれるような相手がすぐそばにいる状況で死ねたのであれば、それは故人にとっても不幸中の幸いであろう。だが、木場は草加の遺体を満足げに見下ろすと、ふいと視線を外してその場を立ち去ってしまう。木場の抱いている人間への絶望や恨みが凝縮されたようなシーンである。「自分の下で働いてほしい」と言う提案を正面から切り捨て、聞く耳も持たなかった草加は、木場にとってはある意味人間代表のようなポジションに位置しているはずだ。その草加が安らかに眠ることなど、木場は許さない。許せるはずもない。

 草加にばかり目が行ってしまうが、その裏で海堂も活躍している。トルーパーに照夫たちを襲わせた木場に文句をつけたらしたたかに殴られてしまい(木場の手の方が痛そうだ)、その後社長室で面会した木場に、人間を守る気など無いことを聞かされる。
 人間を守るのがお前の理想ではなかったのか、と問いただす海堂に、木場はキッと顔を上げて言い返す。
「そんな俺の理想を! ……君は馬鹿にしてたんじゃなかったのか」
 売り言葉に買い言葉、何の反論にも、動機の説明にもなっていない。自分だって理想の通りに生きていきたかったけど、結花が人間にひどい目に遭わされたので人間を滅ぼすことにしました、と素直に言ってしまえば楽なのに。なんだかんだ仲間思いの海堂は、きっと悩みながらも木場に協力してくれるだろう。だが、木場はそうしない。
「バッキャロウ……違うだろ……俺はな、心の底で、ずっとお前を尊敬してました。本当はな、ほんとはお前みたいに生きてみたかったんだよ!」
 海堂にこまごまとした事実を明かさないのは、それが木場の思いやりだからなのかもしれない。海堂の「心の底」の望みに、木場は薄々感づいていたはずだ。何も情報を与えないことで、何も考えずに自分に従ってくれればそれでよし。すべてを明かして自分のように思い悩ませてしまうのは、繊細な海堂にとってあまりに気の毒だ、と。
 木場の方からシャッターを下ろされたのでは、海堂にはもう己の本心を開示するしかやりようがない。だが、もはやその言葉は木場には届かない。
 椅子ごとすこし身体を背け、目線をわずかに下げながら、木場は「くだらない」と吐き捨てる。海堂はお返しとばかりに木場を殴り飛ばし、お気に入りの帽子を力任せに地面に投げつけ、ついでとばかりにトルーパーのベルトを放り出す。
「お前とは絶交だ。これからは俺がお前の代わりになる」
 一人取り残された木場は、黙って俯くしかない。

 海堂が木場の「代わりになる」にあたって、差し当たって対応せねばならない急務がある。トルーパー部隊の魔の手から照夫を守ることだ。だが、たかがはぐれオルフェノクひとりの力では、トルーパー五人(あるいは補充されて六人になっているかもしれない)を相手にするには少し心もとない。
 そこで海堂が向かったのは創才児童園である。正確には、そこで働いている三原のところだ。バイクで出勤してきた三原を捕まえて、「ちょっと俺様に力を貸せ」と海堂は切り出す。「どうしてもやらなきゃならないことがあんだ」。困惑する三原に対し、海堂は覚悟を決めたように膝をつく。
「頼む」
 土下座までされては、三原もさすがに無下にはできない。

 黒ハットに黒サングラス、黒いスーツ。アタッシェケースを手に階段を下りてくる一人の男に、海堂は声をかける。
「おたく木場勇治からベルト貰ったろ。……返せ」
 返せも何も、先ほどベルトを木場に戻したのは海堂自身である。が、接敵は相手にとっても想定内だったようで、片手で開いたスーツの中にはすぐにも変身できる状態のベルトがすでにセットされている。
 変身したトルーパーに襲い掛かるスネークオルフェノクとデルタ。トルーパーはやけにあっさり攻撃を受けると、建物の奥へと吹っ飛んでいく。デルタらは後を追うが、それこそがトルーパー隊の罠であった。誘い込まれた駐車場には、残り五人のライオトルーパーが待ち構えている。多勢に無勢、途端に劣勢に転じる海堂達。変身が解けた三原を守りながら、海堂は「乾を呼べぇっ!」と声を張り上げる。このあたり、海堂的「力になってくれそうなライダー」ランキングが垣間見えるようで面白い。最初に土下座しに行った三原は「一生懸命頼めば話を聞いてくれそうな人」、照夫のことをよく知っているはずなのに土下座の対象にはならなかった巧は「自分が言っても力にはなってくれないだろうが三原の要請だったらすぐに聞いてくれそうな人」という感じか。もちろん草加は「絶対聞いてくれない人」一択。
 地面に落としたデルタベルトを拾おうとするも、トルーパーたちに邪魔されてなかなか手が届かない三原。海堂も身を張って守ってはいるが、防戦一方ではなかなか埒が明かない。そこにやっと駆け付けた巧がベルトを拾って三原に押し付け、ようやく反撃の態勢が整う。振り下ろされた剣を海堂が自分の胸で受け、三原たちから引き離す。素早く変身した巧と三原は、三対六の戦いに飛び込んでいく。
 相手は量産型とはいえ、数の差はどうしても埋まらない。一進一退でなかなか決着がつかないなか、ファイズはアクセルフォームを展開。目にもとまらぬ速さで全ての敵を殲滅することに成功する。青い炎を上げ、崩れ落ちるトルーパーたち。木場が厳選した人材ということは、なるほど彼らもオルフェノクであるというわけだ。海堂的にはベルトを一つ残しておきたかったところだろうが、背に腹は代えられない。ともかく、これで照夫を狙う近々の脅威を退けることには成功したわけだ。

 一仕事終えた巧と三原だが、状況は彼らに一時の休息も与えてはくれない真理の必死のコールにより、二人は草加の待つ海へバイクを飛ばす。あれだけ嫌味を言われていても、巧は「待ってろよ、草加」と祈るような心の声を絞り出す。
 オルフェノクの友とのつながりが切れても、ウマの合わない人間を救う。これが、人間であろうとする巧の生き方なのだ。
 「俺の知ってるお前は、もういない。良いんだな、そう思って」
 金色の落ち葉が降り積もる、いかにも平穏な銀杏並木のベンチで。念を押すように、あるいは最後まで手を差し伸べるために、巧は木場に電話をかける。
 だが、木場はその言葉を一蹴する。
「君と話すことは何もない。人間であろうとする君とはね」
 ぱくんと音を立てて閉じられた木場の携帯には、スマートブレインのロゴストラップが揺れている。メールをしたり電話をしたり、ガラケーライダーに相応しく、劇中にはよく携帯電話を使ってやり取りをするシーンが描かれてきた。緊急の連絡でも、大切な思いでも、携帯電話はいつも人と人とをつないでくれる。その大切な連絡ツールにスマートブレインのロゴを冠する木場は、もはやあちら側の存在になってしまったのだな、と寂しい気持ちになる。

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