【マジレンジャー】27~28話

Stage.27「俺たちの絆 〜マジーネ・マジーネ〜」

 写真が無くなる(現像された図画が消える)表現と言えば『ディケイド』のネガの世界が記憶に新しい。あちらはアルバムの中の現像された写真がネガに戻ってしまうことで異世界であることを現していたが(そういえばあのアルバムと写真は次の世界ではどうなってしまったのだろう。閑話休題)、こちらは写真とアルバムに込められた絆を文字通りばらばらに切り刻んでしまった。もちろん写真だけが思い出のすべてではない。蒔人がアルバムを見せながら語っていたように、記憶の中核をなすものは各人の心の内に根付いているはずなのだが、今回ばかりは事情が違う。芳香以下4人はすでに呪いの血刀・シチジューローによって家族の「絆」を切られており、また唯一切られなかった蒔人は自身がシチジューローに取り憑かれ、自らの手でアルバムをずたずたにする羽目になってしまったのだ。
 シチジューローは今まで使っていた肉体を滅ぼされた腹いせに、小津家の「絆」の象徴であるアルバムを破壊するが、それこそがきょうだいが「絆」を取り戻すためのきっかけとなった。よそよそしく振る舞ってはいたが、蒔人の熱弁によりきょうだいたちの心はかなり揺り戻されていたのだ。他でもない蒔人の顔と声でアルバムを切り裂き、燃やしつくしたことが、ショック療法のように効いた。かくして芳香たちは蒔人のまとうシチジューローの鎧に組み付き(あたかも蒔人が語った思い出話のように、必死に!)、隙をついたヒカル先生の一撃で蒔人は無事解放されたのであった。
 ところで感動的な話の陰で霞みかけているが、蒔人を殴った不良高校生へのお礼参りのために、ボクシングを習い始めた翼が殴り込みに行くのはまあわかるが、そうじゃない残りの3人がよりによって物干し竿を抱えて特攻かけたエピソード、なかなか衝撃的である。なぜ物干し竿なんだ。リーチの差を長物で埋めようと思ったのか。
 EDの呪文紹介コーナー、マンドラ坊やの名古屋弁「うみゃーね・うみゃーね」がかわいい。荒川脚本つながりで『クウガ』の一条さんも名古屋弁を喋っていたのを思い出し、もしやと思ってウィキペディアを見に行ったら荒川先生ご自身が愛知の御出身でいらした。なるほど納得。


Stage.28「永遠に… 〜ジルマ・マジ・マジ・マジーネ〜」

 ロードワークの途中で聞こえてきた美しい歌声に導かれ、湖のほとりの東屋で翼は神秘的な女性と出会う。小さな竪琴をつま弾きながら悲しげなメロディを歌う彼女に思いを巡らせ、気もそぞろの翼だったが、たまたま芳香の持っていた週刊誌から、間宮レイという名前と、レイが一週間ほど前に突然死したことを知る。……同じ週刊誌に芳香のモデルのお仕事が掲載されていたが、広告内の小さいカットではあるものの全国版の週刊誌に載ったのはなかなかの快挙ではあるまいか。
 ネリエスは自らの潰れた喉の代わりにレイを殺め、喉が治るまでのつなぎとして利用していた。生かしたまま従わせたり、不慮の死を遂げた歌手の魂を利用したりするのではなく、現に生きている歌手をさっくり手にかけて道具に仕立て上げるあたり、人間を人間とみていないインフェルシアのなかでもさらに凶悪な冥獣人四底王らしさが抜群である。レイ自身も「自分には歌しかない」と自らの境遇を半ばあきらめ、受け入れかけていたが、翼との触れ合いがそれを変える。セイレーンの住まう水底のように冷たいレイの手を、翼の温かい手が包んだ。弦の切れた指先を心配されることで、レイは徐々に自尊心を取り戻し、最終的には初めてネリエスに逆らうことができたのだ。
 翼と二人逃げ出したレイは「このまま時が止まってくれたらいい」と呟くが、翼はそれに頷きを返すことができない。さきのインキュバス戦で時間の流れに首を突っ込み、ヒカル先生ともども痛い目にあったことをまさか忘れる翼ではない。返事の代わりに、翼はレイの手を強く握る。理性では理解していても、感情がそれを拒む。「レイの魂をあるべきところへ帰す」というヒカル先生の至極まっとうな提案に翼が躊躇した、その心の揺らぎをついて、レイはネリエスの元へ取り返され、喉の薬として吸収されてしまう。
 かつて覚えた魔法を応用し、なんとかネリエスとレイを分離することはできた。レイをネリエスに服従させていた首飾りも壊れて消えた。だが、レイの時間はもう新たな轍を刻むことはなく、魂を縛るくびきが無くなれば、あとは消えてなくなるだけだ。生者である翼の時間は、命ある限り止まることは無い。レイに残されたロスタイムのような時間。煌めく魔法のようなその一瞬は、永遠にはなりえない。
 レイの魂は天に上った。突然死の真相を知るのは、小津家のきょうだいとヒカル先生だけだ。
 一度目の死は恐怖と混乱のさなかであっただろうレイが、二度目の死は翼の腕の中で迎えることができたのは、幸いだったと思う。悲しみの縁に沈む翼がそれに気づいてくれることを願ってやまない。

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