【感想】牙狼<GARO>スペシャル 白夜の魔獣

 公式チャンネルの大盤振舞いに足を向けては寝られない。というわけで、「白夜の魔獣」を視聴した。阿門法師を偲んで赤酒もどきを錬成し(ウォッカと調味料スパイスと素敵なトマトジュース一杯)、なむなむと再生ボタンを押したら当の御本人が堂々登場したので面食らった。100分越えの映画のごとき尺を存分に使って、魔戒法師の里・閑岱での「天魔降伏の儀」にからんだ騒動を描いている。
 時系列としてはTVシリーズの後、小説「暗黒魔界騎士篇」で語られたよりももう少し先の未来といったところ。亡き阿門法師の命により、鋼牙は魔戒法師の卵・鈴に誘われて閑岱へ向かう。同じころ、番犬所の指令を受けた零もまた、ひとりバイクを駆り閑岱に。待ち受けていたのは鈴の兄・翼。彼もまた、「白夜騎士」の名を持つ魔戒騎士であった。

 その「白夜騎士」、山刀翼なのだが、彼の得物は長槍である。鋼牙の刀、零の双刀とはだいぶレンジが違い、基本の動作の一つ一つが大きく、大変見栄えがする。衣装は鋼牙と同じような硬い素材のジャケットに、腰から下は細かなプリーツの効いた裾が足首ほどの長さまでついている。この裾布は外側に白・内側に濃赤の二重構造になっており、鋼牙とふたり身を回して蹴りを繰り出し合うシーンでは、赤い内側の布がはっと目を引くくらいに綺麗な円を描いて広がった。やわらかな素材ならではの柔軟な追随だ。得物が大きいだけに、却って細かな足さばきが要求されるのかもしれない。
 衣装の各所にあしらわれた赤色、そして印象的な彼の耳飾りは、変身後の騎士の姿にも受け継がれている。ガロやゼロが金銀一色仕立てだったので、肩布の差し色やちらちらとゆれる耳飾りがやたらと装飾的に見える。おしゃれというよりは、伝統的・呪術的な意味合いがありそうだ。

 鋼牙はゴンザの整えた居心地の良い豪邸(なんとプリンもある)から閑岱へ旅立ったが、零は相変わらず気ままな暮らしをしている様子だ。正式に鋼牙の後を引き取り、番犬所の神官に直接呼び立てられるような身分にはなったものの、神官に対して傅くわけでもなく、割とフランクなままである。ペンダントから手甲に移ったシルヴァもご健勝で何より。大きなバイクを転がしてひとり閑岱までツーリングしている様子があまりにも彼らしくて、なんだか嬉しくなってしまう。気持ちのいい景色や土地のおいしいものを楽しみながら、つかの間羽を伸ばしてくれるとよいのだが。

 そして鋼牙は、邪美を助けるべく乗り込んだはずの閑岱で、思いかけず亡くした父母と再会することになる。厳しかった父と、ほとんど覚えていない母。だが確かに、父母の愛は鋼牙の中に息づいている。
 TVシリーズでは大いなる父・大河を乗り越え、ホラーの母たる始祖・メシアを打ち破った鋼牙である。カオルもそうだが、描かれていたのは主に父-子の関係性で、カオルの母は父と子をつなぐ結び目のように描写され、鋼牙の母については一切触れられていなかった。父親の存在を胸中に大きく抱え込んでいる同士、鋼牙とカオルには共鳴するところがあったに違いない。
 今回、鋼牙は「母親の愛」を知る。それは邪美を閉じ込めていた魔戒樹の愛情であり、鋼牙の母から鋼牙へ向けられた愛情であった。
 魔戒樹の「娘=邪美を守りたい」という気持ちは、鋼牙の母が鋼牙に向けた温かな愛情と似通っている。鋼牙自身、魔戒樹と戦いながらおぼろげに母の姿を思い出している。だが、ガロのドラゴンボールじみた渾身の体当たりによって、邪美は魔戒樹から切り離され、現実世界へと再び産み落とされる。疑似的なものではあるが、鋼牙は母子の縁を断ち切ったといえよう。なぜ鋼牙への愛は許容され、邪美への愛は否定されるのか。
 それは、どちらの愛も「息子/娘を守る」という志は一緒だが、そのベクトルが真逆だからだ。魔戒樹は邪美を深い眠りにつかせ、転生までの長い間みずからの胎内に収め続けることで彼女を守ろうとする。停滞による守りだ。堅牢ではあるものの、それは死と同義である。
 しかし鋼牙の母は、見たものを笑顔にさせる=変化させる法術を使いながら、幼い鋼牙を抱き上げて「大丈夫。母があなたを守ってあげる」と語りかける。彼女は鋼牙を幼いまま、手元にとどめておこうとは思っていない。日々成長し、幼子から少年、青年へと変化していく鋼牙の行く手に、笑顔が満ちることを祈っている。そしてその生きていく道のりに何があっても、自分、そして夫の愛が、息子を守ると確信している。

 これは完全に余談だが、「母」に着目して物語を追っていくならば、今回のラスボス・レギュレイスもまた、自らの眷属を生み出せる「母」的な一面を持っている。その繁殖力はまさに地に満ちよと言わんばかりであるが、そこに愛情があるかと問われれば、あんまり想定しにくいところである。

 さらに余談を重ねるが、本話の後の時系列である小説版「妖赤の罠」を読んだ。前作「暗黒魔戒騎士篇」のようなサイドストーリーの積み重ねではなく、単体の長編である。「昨日の敵は今日の友」ではないが、ちゃっかり翼が鋼牙・零と仲良し三人組みたいになっており、いい友達が出来てよかったねとつい母親目線になってしまうところ。
 次に見るべき『RED REQUIEM』もすでに公式チャンネルでの配信が始まっており、足を向けて寝られないどころかもはやどこを向けたらいいのかわからなくなりそうである。ありがたし。

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