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セルフネグレクトのお供に

こんなキャッチコピーが採用されるはずがない

 もし自分が、どっかの何かの広告の、キャッチコピーを考える仕事をしていたとする。みんな三つ案を出す。自分だったら、一つ目は正統派な案。二つ目は、一つ目とは切り口を変えた案。そして三つ目に軽くふざけた案。
 三つ目の、軽くふざけた案は議論の活性化を促すための、ほんの、話のネタとして機能させることを狙ってのものだったり、でなきゃ案の水増し要員だったりするもの。

 で、その三つ目を延々と考えることは、仕事じゃ出来ようがない。ので、仕事じゃないところでなら好きにしてもいいんじゃないかと、買い物帰りのリュックの紐を左手で握りながら思った。リュックには税抜き299円になってた刺身の盛り合わせと、一回逆さにひっくり返ったミニパフェなんかが入っている。これはどういう人間のチョイスかというと、
先々週:四日間ストレス性の胃痛に苦しみながらも仕事を休まなかった(まだ働いて6ヶ月経ってないから有給がない)
先週:久々に、他者に「しんどい」を暴露する。気落ちした原因については、全く好転するどころか、むしろ悪化していたが胃痛はなくなる。だが気圧で偏頭痛(いつもの)。
今週:人に甘えることで、その人から気持ち悪がられないか、執着されてると思われないか不安になりつつも、ゲームが起動できるところまでは、なんとか浮上。

 そして今、珍しく、noteに向かう余裕が出てきた。閑話休題&つまり、創作意欲が出てきたものの糧になるのは、焚口戸にくべられるのは、取るに足らないネガティブしかなかった。

アイスには栄養がある

 シンカンセンスゴイカタイアイス。私がこのアイスを知ったのは新幹線の中ではなく、病院の中(以下の事柄は、6、7歳の頃のことであり、記憶があやふやなことを言い添えておく)。このアイスは自分が食べるためのものではなく、肺炎で入院していた祖父のためのものだった。まあ、毎度一口くらいは食べさせてもらっていた気がする。それなりの我儘さが残る年頃だったが、喉にチューブを通している祖父にとって、スジャータのバニラアイスは、数少ない味覚の楽しみであることを理解していたので、もう一口、と強請ることはしなかった。
 元々看護師をしていた母は、「アイスは栄養価が高いのよ」とこの時に教えてくれた(もっとも、今では「食ったら太るぞ」と言われるばかりである)。

ともあれ、まず、セルフネグレクトなんてするべきではない

 これは自分に対しての諌めではなく、他者に対しての願い。一番最初に書いておけばよかったかもしれない。自分を大事にして欲しいよ、ということ。セルフネグレクトの説明は省く。

一食:400円でお釣り

 これより先は、一層、無茶苦茶なことを綴る。
 
 晩飯を遂行するのが面倒臭い人間がいるとする。そいつは、値引きシールの貼られた惣菜コーナーに立ち寄って悩む。選ぶという行為というのは、時によって苦しい。298だが今の気分にそぐわない弁当、498と少し値が張るが食べてみたい丼、398で妥協しようかと思ったが米の入ってない惣菜パック……。やがてこの人間は食欲自体を失うに至る。
 この人間は晩飯を面倒くさがる割に吝嗇なので、昼は弁当を持参して会社へ行っている。弁当に入れる冷凍食品(158〜178円で6個入りが好ましいか)を補充すべく、スーパーでもっとも体感が冷ややかなコーナーへ移動。

——セルフネグレクトのお供に

 薄ー毛を罵倒する二文字から始まるアイスクリーム売り場に、そう書かれたパネルが置かれていた。定価351のところ、スーパーの努力でもう少しだけ安かった。この人間は思う。今夜の夕食はこれでいいのではないか。これを食って不味いと思ったことが今までないし、勿論調理する必要も(電子レンジでの温めも調理に含まれるとする)ない。ちょうど、冷凍食品も買うところだったから、「家に帰り着くまでに溶けるかもしれない」という懸念に苛まれる心配もかなり軽減。
 家に帰ってから携帯を開く前に冷凍庫を開く。アイスを仕舞う。そして自分が吝嗇であることを思い出し「こんな大層なものを食うのに風呂に入らないままの状態で挑めない」と思い開きかけたTwitterを閉じて無事にシャワーを浴びることに成功——。まだ20時前。
 晩飯の洗い物がスプーン一本で済むことに密かな喜びを覚えつつ(まあ洗うのは明日とかかもしれないが)、アイスの表面を刮ぐ……いや少し待つか。この人間は若干活字中毒のケがある為、栄養成分表示を読み出す。はぁ、以外に栄養価が高い。普段の食事にプラスしてデザートにするには罪悪感を覚えかねない。
 晩飯、本当にこれで良かったな別に。と、アイスを食べ終わったこの人間は思った。でも幸いなことに、明日から毎日これでいいや、とは思えなかった。毎日食うには味がくどすぎる。いやこのアイスをディスっているのではなく、貧乏気質には刺激が強いお味なのだと、誰にともなく言い訳する。明日はパスタくらい茹でて食うか。と小さく決意した。
 そして、冷蔵庫から牛乳を取り出し、アイスの空き容器に注いで飲んだ。溜まりに溜まった洗濯物を尻目に。
 

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