夢想

こんな夢を見た。
なんでも、冬の山の窪地のようなところにいる。
冬だとわかるのは、足元に積もる落ち葉が乾燥しきってからりからりと音を立てているからである。雪は無いから、足を踏みしめるたびに落ち葉がからりと音を立てる。
ここは擂鉢の底みたいに、急坂によってまわりを取り囲まれている。葉のない木々の隙間から灰色の空がよく見えた。雲はじっとりと水分を含んでいて、心細い。

わたしはここに来る前に、ずっと走っていたのだった。一体どの道を通って来たのかは定かでないが、落ち葉を踏む感触と、からりからりという音と、喉の奥の熱さをずいぶん長いこと覚えているような気がする。

そういえば、山の中でサバイバルゲームをしているのだった。何人かでチームを組み、迷彩服を着て、ペイント弾を撃ち合う。いつか、その説明を受けた記憶がある。
でも、身体を改めて見ると今はとても身軽で、武器になるようなものは何も持っていない。サバイバルゲームの説明を聞いたのは、ずっと前の夢だっただろうか。
なんにせよ、私が「サバイバルゲームをしているのだ」と思ったらそういう世界になるわけなので、なんとも都合が良い。

走っていたのは、何かから逃げていたのだろう。こういう場合で追手になることはほとんど無いのだ。

さて、状況の整理が着いてきたので、この擂鉢の底から外へ出てみようという気になった。あるいは、擂鉢の外へ出なければならないように思われた。
そうして1歩、斜面に足を掛けてみるが、落ち葉で足が滑って登れそうもない。
積もった落ち葉の中に足が沈む。沈んでいく。あぁ、とひとり合点する。これは蟻地獄だ。
こういう時は下手にもがかないほうが良いと聞いたことがあるので、大人しくしていようと思う。
思考は冷静なようでいて、胃の底はふつふつと煮えて、心臓も粟立っている。
重たくなった灰の雲がすぐ頭上まで垂れてきている。

くるぶしまでが落ち葉に埋まった頃、ぐわしと、頭を後ろから挟むようにして掴まれた。そのまま背後から男の声が言う。
「剣、縄、亀。」
男はもう一度、剣、縄、亀、と言う。
「名前を当てられたら、仲間にしてあげる」
3つの言葉が画像になって、頭の中に想起される。コンバート。何かを思い起こしそうだが、大事なことが思い出せない。誰だったかな。舌が鉛になったように動かない。
正しいことを出来ないまま、突然意識が突き上げられて、真下に自分の姿を見る。擂鉢の底の真ん中に、棒立ちのまま動かない自分だけがいる。
そうして、どこからが聞こえた小気味よい爆発音と同時に、脳に衝撃が走った。
赤色が視界に広がる。

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