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銀と毒~貴族の闇と化学反応


こんにちは、シーフォースのカミカミです!

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「銀食器は毒に反応して変色するため、毒殺対策に貴族が使っていた」というような事を聞いたことがあるかもしれません。

銀が反応するというのはつまり化学反応の事ですが、何の成分に反応しているのでしょうか?

今回、「銀が反応する毒とは具体的に何なのか」を調べてみました。




結論から言うとその毒は「ヒ素」です。

ヒ素は銀や鉛の精錬時の副産物として得られる、無味無臭の毒物です。

ヨーロッパで貴族の毒殺に用いられるようになり、それを防ぐために銀食器が流行したのだとか。遺産相続とかでドロドロしていたようですね。




ちなみに、ヒ素は日本でも毒殺に使用されていました。

「石見銀山」という名称で販売されていた殺鼠剤の成分がヒ素で、ネズミだけでなく人間にとっても猛毒でした。

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といっても、島根県の石見銀山からはヒ素は産出されません。

ヒ素が採れるのは笹ヶ谷鉱山ですが、当時有名だった石見銀山の名を使ったそうです。

この殺鼠剤は庶民に広く流通したので、石見銀山=殺鼠剤 のイメージになりました。ちょっと風評被害ですね。




なぜ銀が変色するのか?

シルバーアクセサリーに詳しい方はご存じかと思いますが、銀は硫黄に反応して黒くなります。

「酸化して黒くなる」と言われることがありますが、正確には「硫化(りゅうか)」で変色します。




化学反応式はこんな感じ。

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空気中には酸素以外にも色々な成分が含まれています。その中の「硫化水素」というものが、銀に近寄っていきます。

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分子同士で電子の移動が起き、硫化水素の硫黄が銀と結合します。水素はどこかに行ってしまいます。

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硫化銀は、徐々に表面に皮膜を張っていきます。

最初は薄い膜なので、ちょっと黄ばんだかな?と思う程度ですが…

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皮膜がどんどん厚くなっていくと、光を反射しなくなるため黒っぽく見えるようになります。

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ヒ素の何が銀を硫化させるのか?

ヒ素は硫砒鉄鋼という石から精製されます。硫砒鉄鋼の化学組成はFeAsS。鉄・ヒ素・硫黄で出来ています。

そして、純粋なヒ素は銀を変色させません。でも猛毒ですよ。

硫砒鉄鋼を焼いてヒ素だけ取り出すのですが、昔は精製技術が低かったため、硫黄成分が残ってしまっていたんですね。

銀食器は、その硫黄成分に反応して変色するのです。シルバーアクセサリーを燻す時の原理と同じです。

というわけで、銀の器に薄めた燻し液を入れてみましょう。




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銀製の盃と、燻し液「真っ黒」です。

この銀黒をお湯で薄めて、盃に注いでみます。




いきますよ…

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あれっ、ちょっと黒いような…?

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注いで10秒しない内にこんなに変色しました。

なるほど、これはすぐバレますね。こうやって毒を盛られないように自衛していたんですね。




現代では硫黄成分が無い純粋なヒ素を精製できるため、銀食器を使用して毒を検知することは出来ないそうです。

でもそういう経緯があって、今でも銀食器を使う高級店がありますし

赤ちゃんに「一生食べ物に困らないように」「魔除け・お守りに」という願いを込めてベビースプーンを贈ることも多いですね。


用途は違うとはいえ、何百年も前から人のために活躍している銀は素敵ですね。

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