靴ひも~東日本大震災に寄せて~
「孝之様、孝之様。診察室へお入りください」
少しホコリをかぶり、古ぼけた様子の黒いスピーカーから音が放たれ、こじんまりした受付ロビーにホワンと響く。全部で6席の椅子から、三十代前半の細身な男性が立ちあがった。抱え込んでいた灰色の小さめなリュックと茶色の薄いダウンジャケットを持ち直し、診察室の扉に近づいていく。診察室のドアはノブを右横に軽く押せば開く仕組みになっている。男性は慣れた感じで2回ドアをノックし、診察室のドアを開けて中に入っていった。
「失礼します」
小田孝之は