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ユウキちゃんのこと

夢にユウキちゃんが出てきた。小柄で、声の高い女の子。

ユウキちゃんとは中学生のとき同じソフトボール部に入っていた。わたしは、「お兄ちゃんも野球やってるし、運動好きじゃないけど中学生活くらいは運動やっといたほうがいいかな〜」というフワッとした理由で入部した。ソフトボール部は、他の運動部がだいたい学校の外周7,8周するところを3周しかしなかったので、そこもよかった。

わたしは圧倒的に、持久力がなかった。ソフトボール部で三年間鍛えたおかげで、体力測定の記録はAだが、持久走の欄だけ平均以下だった。

体力もなく、炎天下校庭で延々と練習をするのは辛かった。毎日「今日雨が降らないかなあ」と思っていた。チームメイトが部活が休みの日に「素振りを何回してる」という話を聞くのが憂鬱だった。何より試合に出て、失敗をするのが怖かった。

そんなわたしより、ユウキちゃんは、ソフトボールの技術が低かった。

同学年は11人。わたしはギリギリ正ポジションライトにいたが、ユウキちゃんは基本補欠だった。とても真面目な子で、早めの時間にグラウンドに出て、壁あて(壁にボールを当てて、跳ね返ったボールをキャッチする守備練)をして練習に励んでいた。体操服は大きめのサイズを腰パンするのがみんなの当たり前だったが、ユウキちゃんはジャストサイズを履きこなしていた。

そんな真面目なユウキちゃんが、美術学科に進学するとは、思わなかった。

わたしも昔は絵を描くのが好きで、その美術学科に進学したいな、しようかな、という時期があって、その学校を意識していたときもあったので、よく知っていた。まさか、ソフトボール部員11人中二人が美術学科に行きたいとは思わない。まず中学の美術部に行けよ。

何より、わたしのユウキちゃんへの印象は、本当に「真面目」だったのだ。真面目すぎておもしろいくらいだった。ひとりだけ腰パンじゃないとか。なんでだよ。腰パンにしないとダサいでしょ。正直、そのダサさを許していてなお、美に関心があるとは何事かと思っていた。センス、ないんじゃない?と思っていた。ごめん。

ユウキちゃんは、その美術学科に合格したのである。公立の美術学科は、その学校ひとつしかなかったはずで、一クラスしか募集がない。相当狭き門だっただろう。一生懸命デッサンを練習したのだろう。わたしはその頃、パワポケ8の最後の埋まらないルートをコンプリートするため、一日中同じ失敗ルートを繰り返していたのに。

高校生になって、わたしは演劇部に入ってユウキちゃんと再会した。県の大会で、いっしょになったのだ。ユウキちゃんも演劇部に入っていた。あれ、わたしたち、似た者同士なのかねえと思った。わたしも普通科に進学したけど、美術への関心は高いし、演劇やりたかったし、中学時代はソフトボールがんばっちゃうし。ユウキちゃんの進学した高校は、普通科は公立の県内トップ校で、先生が作演出を務めることが多い高校演劇の現場で、生徒が作演出なのが丸わかりな尖った、興味深い劇を発表していた。

ユウキちゃんは、そのとても濃密そうな高校で、どんな三年間を過ごしたんだろう。正直、やはりユウキちゃんはとても真面目な人で、新しいことを考えたり自己を表現したりする人間ではないんじゃないかなあ、と、今でも思ってしまっている。でもそれは、負け惜しみなのかもしれない。絵を書いたりデザインしたりするのが好きだったはずなのに、進学を諦めてしまって、その道に進まなかった自分を、後悔して、その道に進んだユウキちゃんに憧れているのかもしれない。

だから夢に見たのかもしれない。

ソフトボール部で、当時わたしは気づいてなかったけど、たぶんちょっとだけ浮いていた。ユウキちゃんとハギちゃんとわたしは、浮いていた三銃士だった。わたしはユウキちゃんとハギちゃん(と、中間にいたマスミちゃん)のことがおもしろくて好きだった。ズボンの履き方がどうかなんて気にせず、いつも朗らかなユウキちゃん。今どうしてるのかな。でも絶対、今頃ちゃんと地に足ついた仕事してるんだろうな。いい意味で、わたしと違って……。

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