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いい子を極めた話

わたしは小さい頃、「いい子」だった。いや、「とってもいい子」だった。「大人にとってのとってもいい子」だった。

言われたことは素直に聞くし、真面目で大人しいし、成績も良く、大人が求めることを察知して、行動することができた。

特別厳しい家庭でも、逆に無関心な親なわけでもなかった。クラスも特に問題はなかった。ただわたしは、人並みに怒られることが嫌な、小心者だったのだ。わたしは、わたしが怒られるのを避けるために、「いい子」でいることを身につけた。

わたしは、いつでも「いい子」でいることができた。叱られているクラスメイトを見て、学ぶことができた。どうすれば怒られて、どうすれば褒められるのか。褒められることは、うれしい。良い評価をもらえるのはうれしい。「いい子」でいることは、わたしにとって過ごしやすいことであった。

小学四年生のとき、「いい子」道のてっぺんまで来たな、と思ったことがあった。

小学四年生のときの担任の先生は、とてもわたしのことを気に入っていた。その先生は小学三年生のときの算数の先生で(このときはなぜか算数だけ専任の先生が教えていた)、その前の年に、お兄ちゃんの担任をしていた。先生は、大人しく勉強のできる生徒が大好きな人で、大人しく勉強のできる兄を大変気に入っていたのだ。そして、その妹であり、また大人しく勉強のできるわたしのことも三年生のときから既に気に入っていた。

小学四年生の国語の授業で、五重塔の耐震構造の仕組みについての評論を読んで、感想を書くという時間があった。わたしは、「この感想を書いてください」と言われた瞬間に、ピーン、ときた気がする。「これ、うまく書けるな。どんだけでも書けるな」と、ピーンときた。そして、わたしは他の子のたぶん4倍くらいの量で、五重塔の耐震構造について褒め称える文章を書いた。本当に思ってることではない。「こうやって、褒め称えられるな」と思ったことを書いたのだ。それが、担任の先生の心に、ちょーうまく刺さったのだ。

先生は、みんなの前で、その長ったらしい文章を朗読した。

「みなさん、素晴らしい感想があったので、朗読します」

わたしの文章は、授業の時間を割いて、ニコニコと先生に読み上げられた。わたしの文章は、ここまで先生を喜ばせ、そして評価されたのだ。

そして、最後の勲章に、先生は名札をくれた。

わたしの名札は、名前の漢字が間違っていたのだ。名簿と名札を見て、おかしいと思った先生から声をかけられた。
「名前が違うみたいだけど、名簿が間違ってるのかしら?」
「いいえ。一年生のときにもらった名札をなくしてしまって、新しいものを注文したら、間違った文字で届いてしまって。それを使っているんです。」
そう伝えた数週間後、先生はこっそり、わたしに新しい、正しい名札をくれたのだ。
「これ、正しい名札。注文して置いたから、使ってね」
先生は、自費で、わたしに名札を買ってくれたのである。

今思い返すと、なんで名札をなくすのかわからないし(すでにほんの少しのADHD味)、間違った名札は交換がきくだろうし(親にもほんの少しのADHD味)、そう、特に親が交換してくれてもいいのでは…?と思う。

とにかく、わたしが「まあいっか。お金もかかるし」と思っていたものを、先生はお金を出してまで、わたしにプレゼントしてくれたのである。

わたしは、先生にとって優等生のまま、小学校を卒業した。

わたしは、自分が「いい子」であることになんの疑問も感じていなかったのだ。

でも、わたしは、「いい子」じゃなかった。
それに徐々に気づいていった。
わたしがいい子でないことを、あの先生は、見抜けていなかった。「いい子」のわたしを愛していた。そう思い返したとき、わたしはとってもかわいそうな気持ちになった。小さい頃のわたしは、わたしではなかったと思うと、とってもかわいそうに思った。小さい頃は、いい子でいるしか、生き方を知らなかったのだ。自分からいい子になっていたのに、なんだかそう思うと、とってもかわいそうだ。

まあ、「いい子」でなくなったわたしは、その後違う生きづらさを感じるので、それは一長一短ということで…。

小さい頃、とってもいい子だったという話でした。

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絶対幸せになれる
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オンラインポエマーで、オフラインでは演劇をやったりアルバイトをしたりしていました。最近は主にキムチを食べています。

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