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渋い趣味としろたんと

渋い趣味だった

わたしは、とても渋い趣味をしていた。

ふんわりピンクや水色は3歳くらいで卒業して、少し落ち着いたピンクや青、黄色などを好んだ。好物はらっきょとざる蕎麦。家で食べる袋ラーメンのとんこつ味に大量の唐辛子をかけていた。この辺りの食べ物の趣味はしばらくすると「なぜこれを好んでいたんだ?」と気づき唐突に終わった。

服や、好きなものの趣味はどんどん渋くなっていった。小学四年生のときは茶色のベロア生地の服がいちばんのお気に入りだった。小学六年生のときはちょっといいお店のバーゲンで、モスグリーンのワンピースと、濃い目のグレーのトップスを買ってもらって、かなり気に入っていた。

わたしが服を買ってもらっていたお店が大抵スーパーの二階の子ども服売り場だったからだろうか。その頃の子ども服は今よりもまだ子ども服らしいものが多く、「もっとナチュラルな雰囲気のものや、落ち着いた色の服が着たいのに、大人の服しかないなあ」と思っていた。だから、大人になったら自分が着たかった子ども服を作りたい!と思っていた。森ガールブームを経て、子ども服にもナチュラルな雰囲気のものが以前より増えたように思える。わたしが出る幕はなかった。

今は、単純にその頃のわたしのセンスが不思議だ。派手めの、子ども服らしいものを持っていなかったわけではないが、落ち着いた色の服がいちばんのお気に入りだったのは間違いない。ピンクや水色の服を着た子たちの中で、わたしは間違いなく自分のファッションが素敵だと思っていた。ざる蕎麦も最高の食べ物すぎて二段食べた。


しろたんの思い出

少し話は変わる。わたしは小学二年生のとき、8歳の誕生日に、しろたんの大きなクッションぬいぐるみを買ってもらった。しろたんと、苺のグッズが売られているお店が、わたしは大のお気に入りで、何か買ってもらえなくても近くに行くと商品を眺めた。誕生日には、あのお店の前のほうにある大きなしろたんを買ってもらおうと思っていた。

わたしは小学二年生にして遠慮する子だった。しろたんは、2サイズ売っていて、わたしは小さいサイズでいいと言った。お父さんは大きいほうでもいいんやでと言ってくれたと思う。わたしは「いい、こっちのにする」と言った。大きいサイズは小さいサイズより1000円高いということがわかって、なんとなく遠慮したのだ。それに8歳のわたしには、小さいほうのサイズのしろたんも、十分に大きかった。「大きいのにしてもらえばよかったな」とたぶん一度も思わなかった。だから全然問題はないんだけど、大きくなってから「なんでわたしはあんなに遠慮しいだったのかなー」と、その頃の自分を思って泣いちゃう。なんで、そんなに消極的にしか、自分のことを考えられなかったんだろう。

この間誕生日に、今までの人生にはないようなちょっとうれしいことが起こった。そのとき、「わたしは小学二年生のとき、しろたんのぬいぐるみを買ってもらった」ということを思い出した。いつだったのかもしっかり覚えている。ずっと大事にいっしょに寝ていたのだ。しろたんは、ずっとわたしの大事なものになった。ピカピカの真っ白なしろたんを初めて抱きしめて、「ふわふわで気持ちいい!」とうれしくなった気持ちを思い出して、「ああ、あの頃に戻りたいなあ」と一瞬思ったけど。あのときの自分が今の自分を知ったらどう思うだろう。あなたから見てずいぶん大人になったわたしは、誕生日に気になってる男の人に告白されちゃったりするんだぜ。そう思ったら、8歳のわたしが目を輝かせていて、今のわたしが好きになった。

そういうふうに暮らしていけたらいいなと思った。

と、そう思い出していたときに、わたしはその日たぶん、えんじ色に少し青が入ったような、あずき色のジャンパースカートを着ていた気がして、そういえばあれ、お気に入りだったな、8歳のわたしによく似合っていたな、と思い出したのだった。

わたしの子ども時代の趣味は、とにかく渋くて素敵なのだ。

同じノートパソコン、8年使ってます!