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本を読まない本屋スタッフ

「ねえ、あなたならこのたくさんある本の中から私に何を勧めてくれる?」(原文ママ)

人生で初めて、知らない人から選書のお願いをされた。
声を大きくして言えることではないが、私は本をあまり読まない。というか、ちゃんと読まない。本、本屋は好きだ。本屋に行くと時間を忘れてしまうし、気に入った本は購入する。好きなだけ言葉を浴びて、大抵はちょっと疲れて帰る。購入した本は、最初の3日間はちゃんと読んで、半分少しいかないくらいで大抵棚にしまってしまう。そう、生粋の積読魔だ。

「どのような本をお探しですか?」

「文章がぎっしりの分厚い本。読み終わったら、はーーってスッキリする感じ。何回読んでも全然理解できないけど、3回目くらいでやっと分かる本が好きなの。変でしょ」

「な、なるほど」

魔反対。難易度が高すぎないか。私は分厚い本を好んでは読まないし、無論繰り返し同じ本は読まない。でも、お客様を変だとは全く思わない。

「とんでもないです。お好みのジャンルはありますか?」

「ううん、50年以上生きてきた私でも楽しめる本なら大丈夫。なかなか理解しづらいけれども何度か読むと理解できる本を探してて」

困った。本音を言うしかない。

「私はまだ人生経験も少なく、選書経験も少ないです。それでもよろしいでしょうか?」

そうするとそのお客様は「ごめんね」と言って、先日もここへ来たのと、お客様本命の写真集が置いてあるブースへ私を連れて行ってくれた。

「私が欲しいのはこの写真集で、二回目きた時にもまだここにあったら買おうと思っていたけれど、また次も来そうだから買わずにおこうって。何かおすすめの本ない?こんなにたくさん本あったら、みんな迷うわよ?」

お客様はすぐに私のそばから離れたけれど、悔しくてお客様が帰るまでずっと、長くて分厚くて中身の濃い文章が詰まった本を探した。でも見つからなかった(というより、本を読まなすぎたことで、何も進められなかった)。

そのお客様は、奇々怪界な絵が好きならしく、最後は展示してあるポスターに関して雑談をして帰ったけれど、結局何も勧められなかった。好きな本の読み方はそれぞれでいいけれど、それらしいエプロンを着て、本を整頓させながら歩く本屋スタッフがいれば、そりゃあそうなるだろうと、反省した。

ひとまずここにある本だけは、誰よりも幅広く詳しくなろうと思った。





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