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物心ついた頃から身近にテレビゲームがあった 両親がゲーム好きだったから そういえば祖父母の家にもゲーム機があった記憶が残っている 根っからのゲーム大好き家族の元に産まれてきたってわけだ ドラクエのふっかつのじゅもんを必死で書き写すことでひらがなを覚えた ゲームごとに違う戦闘システムや技名、魔法名とその効果属性などを毎回覚えることで、高い暗記力を養うことができた 悪いやつは心正しき勇者がやっつけて世界を平和に導く王道ストーリーは、素直な道徳心を培ってくれた おかげで道
* 「どこか行きたいところ、ある? 」 イヤフォンから届く、くぐもった声 時折、車が通り過ぎるザーッという音が 二人の会話を容赦なく遮った 「えっとね、桜が見たい 」 叶わないってわかってること 意地悪でお願いしてみた 「無理じゃない? まだ咲いていないでしょ」 「そうかな」 そうだよね わかってるわよと微笑んだ でもその微笑みは あなたには届かない 桜の美しく咲く時期がこんなにも短いなんて 気づくこともなかった あなたと一緒にいられる時間が 限られている
立派な榎の木を前にして 生い茂った力強い緑葉の揺れる様を眺めていた それはただ目に映りこんだだけで 見てはいなかったように思う なぜなら このストーリーを打ち込んでいる今、 榎の画がぼやけたレンズを通して見た時のように 薄雲って残痕となり頭の中に転がっているからだ 「昔、この中山道は水はけが悪かったから、そこの板橋のところから見える桜は、散った花びらが水に浮かんだまま流れなくてね。まるで桃色の絨毯のようでそれはそれは綺麗だったよ」 同じ榎を見上げながら もう二度と見られ
最後のデート どこへ行きたい? そう聞かれて 心に残る場所なんてあったかしらと 考えてみたら ふたりの思い出の風景って この世に存在していない世界だったことに 気づいた 桜が見たくて お世話になっている 法多山尊永寺へ 今年の初詣は ふたりで行けてなかったから もう、花は散り始め 新しい葉が顔を覗かせていた 今のふたりには かえってちょうど良かったね 手を合わせてお参りをしても 願い事や未来の抱負なんて 何も出てこないし 会話もこれといって 特にない 一度