煙草

昨日を過ぎて、夜もとんと更けてきた。夜更かしばかりしているでしょ。大いに結構だと思います。今晩は。わたしは煙草を吸わない。16歳だもの。でもきっと20歳になっても、もっと歳を取っても、吸わないと思う。ものに依存してしまうと、自分が保てなくなりそうで怖いから。きっとやめられなくなる。あとわたしは400円の煙草より170円の大満足チョコミントアイスを2個買って大大大大満足したいタチだし。毎日コンビニに勤めていると、大体3割くらいの客は煙草を買っていく。もっとかな。200種類以上ある中から彼等は銘柄、長さ、タールの量、エトセトラ。自分の正解を選び取ってゆく。わたしの理解できない世界がそこにはあって、なんだこれと思いながら淡々とあの400円と幾らかもする箱を売りさばく。カートンを空けてゆく。年齢確認ボタンを押してくださいね。ライターをお付けする場合もある。余談だが、わたしはマルボロのパッケージはとてもかわいいと思っている。あともう一つ余談、椎名林檎嬢の曲の歌詞にも煙草は登場する。とても良い。七星の馨りは味わう如く、季節を呼び起こすらしい。前迄、身近にセブンスターを吸う人が居たな。煙草は悪だとはっきり言われる世の中。それでも、自分の周りには煙草を吸っている人がたくさんいる。祖父も吸っていたし、父親もきっとまだ吸っている。わたしの大好きな大好きな人も。わたしは吸わないから分からないけれど、喫煙者の彼等は煙草がないとなんだか落ち着かないようだ。いつも煙をくゆらせて、一服しているように、安堵しているように、見える。でもその人たちは、みんなどこか寂しそうな顔をしている。気のせいかもしれないけれど、物憂げな表情をされるとこちらまで苦しくなるのだ。だからこそ、煙草をやめろと強要することはいつだってできなかった。やめてくれたら嬉しいという旨を伝えることは偶にあるがやめてくれとお願いしたことは今までに一度もない。人間、何かに縋らないとどうしようもなくなる生きものだし。きっとわたしなどに懇願されたところで煙草は吸いたくなるだろうし。難しい。少し喫煙者の気持ちもわかる部分があるかもしれない。わたしは、不健康なことが小さい頃からとても好きだ。何故なら、不健康なことは心にやさしいから。お風呂上がりに裸で動き回る、雨の日に傘をささずに外に出る、甘いものを片っ端から食べまくる、夜更かしを死にそうになるまで繰り返す、など。ちょっとだけ生活からはみ出た時間は、ちょっとだけわたしを幸せにする。煙草もそんな感じなのかしら。といつも思うのだ。"そんな感じ"であってほしい、わたしも同じ思いを少ししてみたい、というただの希望かもしれないけれど。煙草を吸っている人と、煙草を吸っていない人だと、そりゃあ吸っていない人の方が良い。だけど、もくもく消えていく白をいつだって目で追ってしまう。髪に纏わり付いたあの変な匂いで彼等を思い出す。喫煙席で珈琲を飲むのは息苦しくて少し嫌だし、何処かへ去っていった喫煙者のことは、煙草の銘柄で覚えてしまう。今時煙草を吸うやつなんてロマンチシズムのかたまりだ。それでも嫌いになれないのだ。そんな何処にも行けないあなたたちを。煙を見るたびに、煙草を持つ指先を見るたびに、なんだか、寂しくなる。わたしには逃げられるものなどあなた以外何もないのに。あの意味不明な箱の中身のことを考えると、いつも虚しくなる。つらつらと書いてはみたが、あの嗜好品のことなど永遠に分からない。分かり合えない。だから、色んな人の色んな煙草の話を聞いてみたいと思う。明日はどんな客が煙草を買いに来るかしら。どうかよい夜をお過ごしください。此処まで読んでくれた人がいたらどうもありがとう、お休み。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?