番犬は庭を守る

著者 岩井俊二
またえげつない小説を読んでしまった。今日、わたしはローソンでつめたいカフェオレを買った。とっても暑かったから。それから図書館の駐輪場に着いた。気持ちの良い風が吹いていて、紫色の小さい紫陽花が沢山咲いていた。紫陽花はわたしの一番好きな花だ。建物に入る。此処の図書館は窓が大きくて、きらきらと日差しが入ってくるので夏に来ると、居るだけで有意義な時間を過ごせるような気がする。そして本を選び始めて3分経たず、なんとなく手に取ったのが、この本だった。年始に読んだヴァンパイアの時もそうだった。岩井俊二は変態だと思う。洒落た表紙とは裏腹に、内容はとても汚かった。各地で老朽化した原子力発電所が爆発し、人々が健康的に生きられなくなった世界が舞台。生き物の本能の根底は子孫繁栄。しかし放射性物質によって汚染された人間達には、精子減少という大問題があった。精子バンクなるものが設立され、法外な値段で皆が精子を買いに来る。母体である女性の身体も勿論大気汚染でボロボロである。だから子供を産む為に、豚の健康な臓器を自らに移植する。沢山の精子を生まれ持っている者。そうでなかった者。生まれる差別。どんどんと住めなくなる街。簡単に人は死ぬ。汚い。汚い。異常だ。そんな世界でウマソーという男、彼は「持っていない者」だった。持っていない者は、何の地位もない。人権もない。金もない。腐った職業にしか就けない。コンプレックスなど気にしていては生きていけない。そんなウマソーが、何度も何度も何度も絶望しながら生きていく、えげつない小説であった。わたしは、今まで生死を彷徨いながら生きてきたことがない。苦しいことや寂しいことがあっても、明日も世界が廻ってくるのをなんの疑いもなく生きている。安らかに、気付かぬうちに、少しずつ油断している。だから、この小説を読んで純粋に気味が悪いと思った。でも、そんな考えこそが一番危ないのだと思う。たった今、世界が滅びるかもしれないのに。わたしたちは悠々と生きていく。風で乱れた髪を気にして、明日の晩御飯に期待する。汚れた世界を自分たちより見下げて、気持ち悪いとせせら笑う。まるで自分とは全く関係のないことのように。随分と生きやすい世の中になって、危機感がどんどん薄れていくのは、皆が皆、地球ごと緩やかに自殺していくみたいで怖い。実はもう既にとんでもなく汚い世界に、わたしたちも住んでいるのかもしれない。岩井俊二さんの小説はやっぱり、読んだ後にえもいわれぬ絶望と昂揚に襲われる。とても優れない気持ちになるのに、どんどんと引き込まれていく。自分が如何に油断して生きているのか痛感した小説であった。圧巻。

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