あなたの知らない書籍の「紙・インク」の世界
紙の本っていいですよね。
紙の本のどこがいいか?
……うーん……
それはもちろん「手触り」や「質感」でしょう!
という、数多の本好きたち(私含め)がこれまで幾度となく繰り返してきたであろう、このやり取り。
しかし、実際のところ、この手触りや質感とは、いったい紙の本のどのような要素から生まれる「魅力」なのでしょう? 特に電子書籍派の皆さんからすると、いまいちピンとこない場合もあるのではないかと思います。
そこで、この記事では、いわゆる「手触り」の一端を担う、本の「用紙」や「インク」といった要素について、簡単に紹介を試みてみます。とはいえ、ひとつひとつ挙げていくとキリがありませんので、ひとまず今回は本の「カバー」に使われる用紙やインクを取り上げたいと思います。
それではいってみましょう~。
カバーの用紙やインクって何?
まず大前提として、紙の本のカバーには大きく3つの要素があります。
それは「用紙」「インク」そして「加工」です。
編集者は、これらの要素の最適な組み合わせを、カバーのデザインを担当するブックデザイナーの方と相談しながら選定します。
たとえば、
特定のキーカラーを設定したデザインであれば、その色を目立たせるべく、発色のよい「特色インク」を使ったり、
古びにくい普遍的なテーマを扱った内容であれば、店頭で綺麗な状態を長く保てるように、汚れにくい加工を施したり……。
一冊一冊の特徴にあわせて、さまざまな組み合わせが考えられます。
紙の本のカバーというのは、その本のためだけにオーダーメイドされた「一点物の特注衣装」のようにイメージすることもできるかもしれません。
そして、中にはめずらしい衣装(カバー)をまとった本もあります。いくつか紹介してみます。
指を置けばわかるこの違い!「つい触りたくなる紙」
たとえば、こちらの本。
写真ではわかりづらいのですが、実際にカバーに指で触れてみると、そのままの意味で手触りが違います。気持ちいいざらつきというか、肌になじむというか……とにかく、いつまでも触っていたくなるような「イイ手触り」なんです。
この本は、一般的に使われる用紙とは異なる、高級感のある手触りの用紙「ヴァンヌーボ」をカバーに使っています。読者の方がPCの傍らに本を置いて学習を進めるシーンをイメージし、手元に置いておきたくなるような存在感を持った一冊になっています。
書籍も日焼け対策!「耐光性インク」
最近は気温の高い日もあり、夏の訪れを感じます。夏といえば日焼けですが、実は書籍も日焼けするのをご存じでしょうか。
なんと、書店の店頭に並んでいる本は、室内の蛍光灯などの明かりによって少しずつ焼けてしまうのです。肌が焼けて黒くなる我々とは異なり、本の場合は焼けると、カバーに印刷されたインクが色落ちしていってしまいます。
たとえば、自宅にあるこの本(『あたしンち』は私のバイブルです。アニメ版の新作も楽しみ)。何年も棚に置かれて、背表紙に近いピンク色が褪せてしまっています。
特に暖色系のインクは色落ちしやすく、ピンクやオレンジ、黄色などを使用したカバーデザインを採用するときは、ある程度日焼けを覚悟するのですが……このことを踏まえて次の本を見てください。
カバーとイラストの部分にオレンジのインクを使用しています。
実はこの写真に写っている本は「3年間、蛍光灯の下で光にさらされ続けた」本なんです。
この本は制作当時、オレンジのインクの日焼け対策として、「耐光性インク」と呼ばれる色落ちしにくいインクを使いました。
耐光性の効果はいかほどかと、蛍光灯の真下にある書棚の最上段に置き続けていた(というか置いたことを忘れていた)のですが、いまだに日焼けの心配はなさそうです。
印刷されたばかりの増刷見本と並べてみてもこの通り!
編集者の気合の証!?「UV加工」
最後に、こちらの本です。実は特殊な加工が施されているのですが、わかるでしょうか。
少し近づいてみましょう。
タイトルの部分の質感がちょっと違うのがわかるでしょうか?
これは、「UV加工」と呼ばれるもので、UVインクをコーティングして印刷することで、印刷部分がわずかに盛り上がる効果が得られる加工です。
たまに書店などで、カバーの一部分がプクッと盛り上がっている本を手に取ったことはないでしょうか? UVインクの量を盛れば盛るほど、仕上がりのプクッと度合いは大きくなります。
実はこのUV加工、それなりにリッチな加工でして、他の加工方法と比べるとややお値段がかかります。
そんなわけで、書店を訪れた際、UV加工でプクッとした本を目にすると「これは気合が入った本だ……」と担当編集の方への畏敬の念を抱いてしまいます(そして、プクッと部分をいちおう触らせていただきます)。
いくつかの本を紹介しましたが、用紙やインクの奥深い世界は、到底この記事だけでは案内しきれません(記事を書いた私自身も、まだまだほんの入り口しかわかっておりません)。また機会があれば、そのほかの用紙についても書いてみたいと思います。
今後、書店を訪れた際は、ぜひ書籍のカバーの用紙にそっと手を触れてみてください。これまで何の気なしに見過ごしていた、紙ならではの「手触り」の世界につながる扉が拓けちゃうかもしれません!
(担当:しま)
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