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宮城リョータのフリースローに思う。映画「THE FIRST SLAM DUNK」の世界観

※思いっきり映画のネタバレしてますので、気になる方は見ないでくださいね。

前回の投稿に引き続き、スラムダンクの映画「THE FIRST SLAM DUNK」の見逃したくない「細かなところ」を列挙していく。

※ちなみに見つけられなかったキャラクターのうち、「テツ沢北」と「大栄学園の土屋くん」は無事発見しました。

あと、新規の小ネタで「渡米した後の沢北栄治くん、髪型の超マイナーチェンジ(左側だけ黒とグレーの間に剃りこみが入っている)」というのも確認しました。


今回、宮城リョータの成長を描くうえで欠かせなかったのが、3歳年上の兄・ソータだ。
海の事故でいまだに帰ってこない兄の存在が、そして、その兄との最後の別れ方(もう帰ってくんな、と言ってしまったこと)が、リョータにとっては呪いとなっていた。

「ソーちゃんのいない世界で、バスケだけが生きる支えだった」リョータ。
ソータは映画の中で思い出、あるいは幻覚として登場するが、それ以外にも「ソーちゃんがそこにいる」という空気を想起させる現象がある。

それは「THE FIRST SLAM DUNK Re:SOURCE」の中で触れられているのだが、「」である。

リョータが山王工業の4番・深津一成からインテンショナルファウルをもらい、フリースローをする場面に、回想シーンが挟まれる。


インターハイの山王戦前夜、自分がマッチアップするのが「日本一のPG」と称される主将・深津一成だということに緊張と不安がピークに達してしまうリョータに、同級生のマネージャー・彩子が「ぴったりじゃん。切り込み隊長」と答えるシーン。

(ここで彩子が「あんただってなかなかのガードよ。神奈川ナンバー1…ではないけど…ナンバー2…でもないか…」と言う瞬間、頭の中に牧と藤真がよぎる人も多いだろう。)

彩子から「苦しくなったら何かやることを決めとこう」と提案があり、掌を見る、という動作をすることになる、というオリジナルのシーンだが、この2人が話している間じゅう、ずっとざわざわと風の音がしている。
水たまりに水紋が出来たり、葉っぱが落ちて揺れたり。

この場面、「風でソータの存在を感じさせる」という目的がある、と「re:SOURCE」で明記されているのだ。

そして、場面は山王戦に戻り、苦手なフリースローの2本目。
集中するリョータの姿。そしてその背景には、決して体育館では聴こえることのない、風の音が確かに届く。

実はこの風の音、もちろん彩子とのシーンでは意識していたのだが、体育館でのフリースローのシーンにも風の音が聴こえている、というのは、又吉直樹さんのYouTubeでの発言で初めて気づいたことだった。

原作ではこのフリースローのシーン、
「宮城、決して得意でないF.T.(フリースロー)を執念で2本決める」
と書かれている。

そう、リョ―ちんはミドルレンジのシュートがいまいちなのだ。深津もそれに気づいていて「打たせるピョン」という煽り台詞があったわけだが。

(思い起こせば映画の冒頭、沖縄でのソーちゃんとの1on1でもミドルレンジのシュート外してました。)

この局面で2本決められるのはすげー、と原作を読んだ時には思っていたけれど、映画で風の存在に気づいたら、やはりここはソーちゃんが助けてくれたのかなあ…と思ってしまう。

リョータはソーちゃんの存在に囚われ続けていた、と言えよう。

一瞬でも兄と重ねた三井寿に希望を抱いたにもかかわらず、その三井に「生きる支えだった」バスケを奪われそうになる。
三井と対決することにより、自分の心がぐちゃぐちゃになってしまったリョータは自暴自棄になって交通事故を起こすわけだが、ある意味この「三井との対決」がなければ、バスケに「自分の」意志で向き合うこともなかったかもしれない。
逆に三井からすれば、この喧嘩がなければバスケ部には復帰することはなかっただろうから、この二人の因果も相当なものだと思う。バスケを与え、奪い、奪われ、また与え合い、最終的には山王戦の終盤の「パス出すっすよ」につながるのだから。

話が脱線した(ミッチーのことを語るとついつい横道にそれてしまいます)。

リョータの、最初の「ソーちゃんへの気持ちの区切り」は沖縄へ帰ってひとり、洞窟で「慟哭」する場面だろう。

あの後、嵐のように降っていた雨も止んで、波止場にひとり佇むリョータのすっきりとした表情に、何か憑き物が落ちたような、一段階前に進めたような…彼の成長を表情から感じたのは、私だけではないだろう。

そして試合終了後、神奈川に帰ったリョータが向かったのは海岸。
その冒頭シーンでは、空が映り、そこを風にまかせて群れ飛ぶトンビが描かれている。

母との和解ののち、赤いリストバンドを渡して、親子で海の向こうを見つめるときにも、柔らかな風が流れている気がした。

この時、リョータは初めてしっかりと「ソータとの決別」が果たせたのではないか、と思う。



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