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幸せな夜と、「デザインフェロー」のこと

昨日は、終日長野市での仕事。明らかに暑さのレベルが変わったことを実感する。いよいよ真夏の到来だ。

昨日は、これまでの積み重ねが実を結んだ仕事が多く、特に夕方の集いは本当に嬉しくて、楽しい時間になった。

信州大学教育学部内にあるFabLab長野にて。

今年の4月からスタートした「デザインフェロー養成講座」というプログラムがある。昨夜の集まりは、そのプログラムを推進している運営チームが久しぶり集まる機会だった。

デザインフェロー養成講座は、長野県教育委員会の主催で、僕自身は、1年前くらいの準備段階から、プロジェクトの構想と実現に向けて、プロデューサー・コーディネーター的に関わってきた事業。

内容としては、プログラミング教育を含む「クリエイティブラーニング」がテーマになっている。クリエイティブラーニングというと聞き覚えがない人も多いかもしれないが、要約すれば、「答えのない課題について試行錯誤しながら新しい価値を生み出すことができる人材を育成するために、「つくる」ことをベースにして開発された学び(教育)のあり方」、とでも説明できるだろうか。

詳しくは、最近翻訳されたMITメディアラボ教授ミッチェル・レズニックさん著の『ライフロングキンダーガーデン 創造的思考力を育む4つの原則』を読んでみてもらえれば、もっとその本質や重要性がわかっていただけると思う。

すでにお決まりの慣用句になりつつあるけれども、答えのない課題が溢れ、多くの仕事がAIなどに置きかわると言われている(そして、すでに入れ替わりつつある)今やこれからの時代において、試行錯誤しながらチームで新しい価値を創造できる能力を育むクリエイティブラーニングの重要性はどんどん高まっていく、ということには誰もが納得すると思う。

ただ、それを学校現場にどう落とし込むのか、というと、途端に話が難しくなる。学校に限らず、どんな組織においても、新しい発想で物事を入れ込もうとしても、既存の文化や考え方に絡め取られて、結局、本質的な変化が生まれないケースは多いからだ。

2020年に小中学校で必修化される「プログラミング教育」についても、きっと同じようなことが言えると思う。本来は、変化する時代に対応するために、教育の内容自体も変化することを目指して設置された新しい教育領域が、その背景や理念が共有されない中で、単なるプログラミング言語を学ぶためのスキル教育(=つまり、答えがある教育)にとどまってしまう。そんな危機感を持つ教育関係者は少なくない。

前置きが長くなってしまったが、このような背景が、「デザインフェロー養成講座」の下敷きになっている。義務教育課程での必修化のタイミングで、プログラミング教育を単なるスキル教育に終わらせず、クリエイティブラーニングが目指すところまで昇華できる教育カリキュラムや授業設計を、現場レベルから実現する。これを目指して、デザインフェロー養成講座は構想・実施されてきた。

では、結局中身はどういうものなのか。

具体的には、①昨年度3月に長野県内の小中学校に呼びかけ、その公募に集まった14名(元々の公募定員は10名)の先生方が、②クリエイティブラーニングの理念や原則についてオフラインの合宿とオンラインでの定期的なメンタリングを通じてともに学び、③それぞれの授業の枠や授業外のクラブ活動などで実験的な授業を設計・実施し、④その振り返りを通じて長野県発の授業カリキュラムを現場から生み出していく、というプロセスで進められている。先生方の「ラーニングコミュニティ」と言ってもいいかもしれない。

4月後半にキックオフ合宿を行い(キックオフ合宿には、教育長や知事も遊びに来てくださり、県としても注目していただいているようだ)、現在は定期的にオンラインでの情報共有の機会を作ったり、メーリングリストでのやりとりをしながら、先生方がそれぞれの模擬授業を試行錯誤している段階になっている。

これまでの経緯については、村松先生が運営するFabLab長野のウェブサイト上のブログで見れるようになっているので、興味がある方は、ぜひご覧いただきたい。

デザインフェロー養成講座 キックオフ合宿の様子(未来工作ゼミより

こういった形で、先生方がピアで学び合いながら実験的な授業構想を進めているという内容自体も珍しいとは思うが、このプロジェクトの特殊かつ本質的な先進性は、その座組みにあると思っている。

長野県教育委員会が主催をしつつも、クリエイティブラーニングの最新の事情を踏まえつつ、プログラム全体の設計や検証をコーディネートする役割として、MITメディアラボの研究員である村井裕実子さんが、オンラインを駆使しながらプロジェクト全体を引っ張ってくださっている。

また、信州大学教育学部の技術教育分野の教授で、FabLab長野の運営をされている村松先生やその学生のみなさん、そして、民間としてこの分野のアフタースクールプログラムを数多く手がけるアソビズム(未来工作ゼミ)のみなさんにも、プログラムの実践部分や先生方との授業開発、コミュニティづくりなどで、自分ごととして関わっていただいている(「関わる」というよりも、それぞれのメンバーが主体的にプロジェクトをリードしている、といった方が正確な表現で、特に村松先生のリーダーシップやFabLabに出入りしている学生さんのモチベーション、能力の高さには、いつも驚かされる)。

本当に多様な方々が、それぞれの得意分野を生かしながら、真剣に協働してプロジェクトが運営されている。

繰り返しになるが、僕自身は、プロジェクトの構想段階から、プロジェクトがより良い形で実現するように、こういった多様な個人や組織をつなぎ合わせて、それぞれのメリットになる形を模索しながら1年以上関わってきたのだけれども、こんなに前向きに、「ともにつくる」を実現できているプロジェクトもなかなかないと思っているし、まさに、このプロジェクト自体が、クリエイティブラーニングが大切にする4つの原則(Play、Passion、Peer、Project)を体現していて、自分自身も、本当にいろいろなことを日々学ばせていただいている。

まだ、一区切りついたわけではないけれども、少ない予算の中で(むしろ、だからこそ)、思いを共有していただいた個人や組織が素晴らしいチームとなってプロジェクトが進んでいることに、本当に大きな喜びを感じている。

キックオフ合宿での最後のひとこま(未来工作ゼミより)

だからこそ、昨日の夜は、そんな1年間くらいのいろいろを思い出しながら、よく笑い、感謝の気持ちが溢れる時間になったのだと思う。

きっと、こういう瞬間を1年のうち何回か作ることができれば、それだけで人生はとても幸せなんじゃないか。大げさかもしれないけれども、そんなことを素直に思える夜だった。


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