「フレキ神話」の迷信
2年ほど前から爆発的に増え始めた“フレキ改造”ですが、初級者レーサーにとっては敷居が高い存在です。改造難易度の高さとレース入賞者がフレキ使いで占められる事から、レベルアップの登竜門のように思われていますが、闇雲にフレキ改造を施しても思ったような結果を得られないこともあります。
今回はフレキ改造とは何かを改めて掘り下げてみようと思います。
フレキ改造とは?
もはや解説不要ですが、主にMSシャーシ(以下、MS)を使って行われる改造です。MSはフロントユニット、センターユニット、リヤユニットの3つのセクションに分かれている事が特徴のシャーシです。ユニットごとの接合部分にサスペンションのようにバネを仕込み、前後ユニットが上下に可動できるようにするためのスペースを設けることで成立します。フレキによってもたらされる“しなり”とサスの衝撃制御によってジャンプ着地時の衝撃を和らげ、少ないマスダンパーでも弾まなくなるなどの効果を得ることができます。作り方についてはいくつかの“流派”に分かれており、人によって作り方が違うことも特徴の1つです。
ところで、MSを素組状態で走らせた経験がある方はどのくらいいるでしょうか。
フレキにすると速くなるのか?
結論から申し上げると、フレキ改造を施しただけでは速くなりません。単純に速くしたいのであれば、MSを素組状態で使った方が速いと考えます。それは、MAも含めた所謂「両軸シャーシ」は片軸とは違う特性により、非常に速いからです。特に、立体テクニカルコースで力を発揮する傾向があり、片軸から乗り替えた人にとっては速く感じるはずです。
これは、重心が車体の中心に寄るセンターミッドシップと両軸モーターによるダイレクトドライブ構造特有のメリットによるものです。ミニ四駆の重量の中心はモーターと電池ですが、MSとMAはその重量がシャーシの中心に集中します。これによりマシンの旋回性が上がり、コーナリングがスムーズになります。また、片軸車は前輪と後輪へ動力を伝えるギヤの数に違いがありますが、MSとMAは前後輪共にギヤ数が同じです。つまり前後にラグなく動力を伝えることができるため、減速から加速するまでの時間が片軸車よりも短い傾向にあります。駆動周りが中心に集中する事で、シャーシの“しなり”によるギヤ離れの影響を受け辛いというメリットもあります。これらの特徴によって、MSとMAは初心者でもある程度速いマシンを作ることができます。
さて、ただでさえ速いMSに、フレキの機構を加えるとどうなるでしょうか?机上の理論で考えれば、フレキは遅くなるはずです。
上記で述べたMSの特性は素組の状態で発揮されます。フレキによる“しなり”やサスによってユニット間が容易に動くようになった結果、カウンターとスパーギヤが“離れる”という事象が発生します。ユニットはサスの力によって元の位置に戻りますが、たとえ0.1秒でも離れてしまうと、レースでは10cmくらいの差が生まれます。これが周回中に何度も発生すれば、ラップリーダーとは1秒以上離されてゴールすることになります。それでは、なぜレースで上位に入るレーサーにフレキ使いが多いのでしょうか?
限界まで攻めるためのフレキ
フレキによって得られる最大のメリットは、MSの弱点でもある「着地時の姿勢制御」にあります。MSもMAも速いシャーシではありますが、シャーシの“ピーキー”さ故にもたらされるメリットです。片軸車に比べてマスダンパーのセッティングが難しいこともMS及びMAの特徴でもあります。前後だけでなく、真横にもマスダンパーを配置しなくては跳ね返ってきてしまうことがあるのですが、MAの場合はサイドガードがあるため、無改造でマスダンパーを配置することができます。対してMSにはサイドガードがないため、横の位置にマスダンパーを置くには改造が必要になります。加えて、多数マスダンパーを配置することによって重量が増えてしまうこともネックです。フレキは車体にサスとしなりを与えることによって、マスダンパーを配置しなくても高い制振効果を得る事ができます。
速さと車体のバランスと重量…上位レーサーがマシンを煮詰めていくにつれて、この三権分立には悩むはずです。ただ速く走るだけでなく、完走してこそ勝利となるのがミニ四駆であるならば、うまい妥協点を見出す必要があります。フレキによって失われた速さは他の部分で補わなければなりませんが、上位者はその点でのノウハウが充実しているからこそフレキという選択肢が選べたとも言えます。自分のマシンに必要な取捨選択こそがミニ四駆の難しさでもあり、奥深さでもあります。
単純に作りたいものを優先する事も悪くはありませんが、それによって思った通りの走りが出来なくなってきた時には、自分のマシンと向き合って一緒に悩んでみるのも良いのではないでしょうか。
【まとめ】
・フレキはMSシャーシに衝撃制御をもたらす
・一方でギヤが離れる事で速度を失う
・速さとバランスと重量の妥協点を探ることも大事
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