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最高に切なく、心に残る。あなたのことが頭から離れないよ、ダッチェス。

自分を「無法者」と名乗る13歳の少女・ダッチェスは、典型的な
ヤングケアラーだ。
アルコールに呑まれ、しばしば救急車で病院に運ばれる母親・スターの
代わりに、弟のロビンを精一杯愛し、面倒を見ている。

スターが問題を起こす背景には、遠い昔、妹が自分の恋人・ヴィンセントの車にはねられて死んだという事件があった。
彼女はそのくびきから逃れられないでいる。何十年経っても。

ダッチェスとロビンを取り巻く環境は厳しい。スターは二人を愛しているものの、ダッチェスが守らなくてはいけない弱い存在だ。
ネグレクトされている子どもは、どこの国でも同じ年の子どもたちの中では異質で、迫害される。
「無法者」を祖先に持つことを誇りにしているダッチェスは、そんな周囲に
対して牙をむき返す。特に、スターを侮辱したり、言い寄ったりする男たちには。

唯一の理解者で、一家を助ける警察署長・ウォーク。
彼も問題を抱えている。
そのウォークの一番の気がかりは、保釈されて地元の街へ帰ってくる
ヴィンセントだ。
事件を起こしたときには少年だったヴィンセントが刑務所へ送られ、そして、その中で更にもう一つの殺人事件を起こしていた。
何も語ろうとしないヴィンセントにいらだつウォーク。

そんなある夜、スターが銃で撃たれて殺され、ヴィンセントが通報する。
撃ったのは自分だと。
認めたくないウォークだが、警察は彼を犯人と断じる。

そして、ダッチェスとロビンは一度も会ったことのない祖父の農場へ引き取られることに…

最初から、ダッチェスの周りには不運と不幸の匂いしかしない。
これがどれだけエスカレートしていくのだろうと、読んでいてハラハラし、胸が締め付けられる。
ただ、残酷で辛い事件が起こるものの、ひどい悪人がいるというわけでは
ない。
みんなが少しずつ何かをしでかしてしまう。
ちょっとした過ち、少しの不運、それが大きな不幸を運んでくる。
これがこの物語のを切なくも美しくする。
厄災を運んでくるのが大悪人とは限らない。
ひとつひとつの判断が、幸運招くのか、不運を引っ張り込んでしまうのか
解らない。
タイトルのように、「闇から天を見る」事しかできなくなってしまう。
その「天」とは、なんと輝いていることだろう。
ダッチェスが見上げた空は…

ストーリーテリングが巧みで、
キャラクター一人一人の書き分けも素晴らしく
オープニングの惹きつけ方も、「お手本」のよう。
Storyを教える立場からすると、教科書のようによくできた作品だと言える。
でも、それだけではない。
スキルだけでは語れない。
心を持って行かれる物語については。
これはそういう物語だ。

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