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映画『テッド・バンディ』

原題:Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile(2019年 アメリカ)
ジョー・バリンジャー監督

「とんでない人間性の無駄遣い」と裁判官は言った。

登場人物の独白。


テッドのことは新聞で知った。
おどろいた。
わたしの知っている彼はときどきおかしなことは言うけれど、とてもスマートでハンサムな同僚だ。
実は、ちょっとだけ関係をもった時期もある。
というよりも、あれ以来ずっと気になっている。
ほんとのことをいえば、新聞で名前を見ただけで体にグッと力が入るのを感じた。

新聞で懐かしい彼の名前で出会ったとき、これはきっと運命なんだと思った。

気がつくと、報道されていたユタに来てしまった。
同じ毎日の繰り返し、見飽きた人間たちに、飽き飽きする仕事。スクリーンに映し出されるように続く、どこか現実離れをしたいつもの風景。つまらない。
彼と会うことを思うと、躰の奥底で何かが熱くなるのを感じた。

彼が不当に告発された誘拐や殺人の容疑の不当な逮捕から保釈されると聞いた。
彼を支えてあげたい。
私は、危険な匂いのする人に惹かれてしまうのかもしれない。
私の先祖にはカリブの海賊と付き合った女性がいるという…
その彼女はとってもイカした女の子だったという。自由人を気取っているけど、職場でお局さまみたいになった私とは全然違う。
ともかく、彼の声を、彼の息遣いを感じたくて、彼の保釈を待った。

保釈された彼には別の迎えがいた。
ちょっとがっかりしたけど、それほど驚くことはない。
ハンサムでナイスガイの彼を女たちが放っておくわけがない。
リズという女性と彼は、どこまで行くのかと思ったら、家には帰らずにドッグセンターに入っていった。
わたしは、ドッグセンターでたまたま出会ったかのように装い、ようやく彼のまなざしに包まれた。
ああ、彼とのハグ!
でも、残案ながら私を抱きしめていた腕は、リズの肩に回されてしまった。でもその表情はどこかとまどっている。きっと、彼もわたしとの運命に気づきはじめている。

…二人は婚約しているのだという。
なんていうこと…

◆◆
職場の同僚のリズが、シングルマザーでよく頑張っていたのは知っている。
彼女を知っている男で、彼女を気にしない男なんていない。
離婚したての頃、元気のなかった彼女も生活に順調さが戻ってきていたようだった。

けれども、ようやく訪れた安定もそんなに長くは続かなかった。
あまりはっきりとした話を聞いたことはないが、つきあっていた彼が警察に逮捕されたそうだ。

その男が、湖で発見された二人の女子大生の誘拐殺人の容疑をかけられていると知ったのは、つい最近のことだ。
コロラドでも似たような事件を犯していたと容疑を深めているらしい。
最近、リズの元に、何度も警察らしき男から電話がかかってきている。

どうやら、警察が彼女を追い立てているようではないことはわかる。
むしろ彼女が悩んでいるのは、ひっきりなしにかかってくるあの男からの電話の方だ。
その男と彼女の間にどんな深いできごとがあったのかは、僕は知らない。
けど、僕のシックスセンスは彼女の危険を鋭く感じ取ってしまう。

後年になって、大きくなったリズの娘・モリーに聞いたところでは、二人はシングル・バーでたまたま出会ったそうだ。
モリーも小さい頃から可愛がってもらったそうだ。
おもしろい男だったという。
ママとテッドは結婚するんじゃないかと、小さいながら予感していたとさえ、モリーはいう。

…あの男が脱獄し、ふたたび捕まったという。
その間にまた事件の容疑が加わったと、報道は過熱している。
リズは、一週間も仕事を休んでいる。
このままでは彼女の気持ちが潰れてしまう……

僕も決断のときだ。そう思う前に、気づいたらリズの家に向かっていた。



テッドからの電話!
ああ、やっぱり神はわたしを見ていてくださった。
いいえ、このわたしの彼への思いこそが、神の意志だと信じる。

面会であった彼は、疲れ切っていた。
哀れなテッド。あの女とも切れているんだろうか…
いいえ、彼は、わたしを選んだ!
彼を支えるのはわたしの役目、彼の真実を知るのはわたしだけ。

面会では、二人の絆を看守が遮ろうとする。
けれどわたしたちの結びつきは、誰にも邪魔はできない。
彼は、人々から発言の権利を与えられていない。
決めつけられ、断罪されようとしている。ああ、なんてこと。
わたしが、彼の映し身となって、彼の言葉を、真実の彼を社会に伝えなければ

裁判で彼が表に出ればでるほど、たくさんの女が彼の周りに集まってくる。
それも当然。彼ほど素敵な人はいない。
でも、バカな女たち。
彼の真実を知っているのはわたしだけ。
愛の結晶もわたしたちだけのもの。
彼の気持ちがあの女に惑わされようとも、愛の証が、神の印。
愛の証が、全ての勝利をわたしたちにもたらしてくれるはず


◆◆

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