水中生物の音を収集・分析するプロジェクトーー「水中生物音のグローバルライブラリー」とは何か

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2022.5/20 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、世界中の水中の「音」を収集・分析するプロジェクトについてご紹介します。

◾水中生物が発生させる「音」

海の中で音声を録音すると、波の音以外にも、様々な音が収録されます。以前もお伝えしたように、クジラは音でコミュニケーションをとっており、クジラが発する音を保存・分析するプロジェクトが存在しますが、何の音かがわからない、謎の音も未だ多く存在しています。

フランスのペルピニャン大学内の組織で、1997年に設立された地中海環境教育研究センター(CEFREM)では、海中で聞こえる音を収集・分析し、カエルに似た鳴き声の正体がカサゴ類の魚から発せられていることを発見しました。

https://cefrem.univ-perp.fr/

このように、魚が発する唸り声や、ピラニアのリズミカルなドラム音など、海中では多くの生物が音を発しています。音というレンズを通してみた海の世界は、まだまだ私たちにとって未知の世界であるとも言えるでしょう。

◾水中音のデータベース化

世界中の水中音を収集し、データベース化構築を目指す「水中生物音のグローバルライブラリー(GLUBS)」は、世界9ヶ国の専門家が取り組んでいるプロジェクトです。

2022年2月に学術誌に発表した同組織の論文では、世界的に生物多様性が低下しており、水中生物の音源を収集し、データ化することの必要性を訴えています。論文によれば、世界には126種の海洋哺乳類、約35000種の魚類、約25万種の海洋無脊椎動物(クラゲやサンゴ、カニやウニ)が記録されていますが、海洋哺乳類は126種ほぼすべてが、魚類はおよそ1000種、海洋無脊椎動物は100種近くが音を発生させていることが確認されています(この数は、データ収集によってさらに増える可能性があります)。

また、人工知能を利用し音の解析を進めることで、水中生物が発する音の意味を理解するとともに、例えば同じ種類の魚でも、生息地域の差で音にも差異があるかどうかといった比較研究も進めることが可能です。

水中生物の音はとても小さなものも多く、観察者が積極的に探さなければ収集できないものあります。あるいは、(同一の条件設定等)どのような音環境でデータ収集を行うかといった、技術的課題も存在します。さらに言えば、海洋汚染が進むことで水中生物がいなくなってしまったり、船の往来が多い等、環境騒音レベルが高いところでもまた、音の収集が困難になります。一方で研究が進めば、音だけで魚の種類を判別したり、あるいは視覚情報ではわからなかった魚の関係性を理解することにも役立ちます。

音を収集・分析することは、今ある世界を理解するだけでなく、将来的に消えてしまうかもしれない情報を記録しておくことにもつながります。その意味で、水中の音を研究することは、大きな意義があるのです。

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