テレワーク時の音声プライバシーとはーー「聞かせる音と聞かせない音」を考える

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「テレワーク時の音声プライバシーとは~「聞かせる音と聞かせない音」を考える」(Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)
2020.5/1 TBSラジオ『Session-22』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回はテレワークの音声について、プライバシーの観点から考えてみたいと思います。

◾求められる音声のプライバシー

現在の在宅テレワーク下においては、プライベート環境である自宅にビジネス環境が同居するため、プライバシーへの配慮が必要とされています。そのため、例えばオンライン会議で「バーチャル背景」(あるいは背景のぼかし)を使用する人も多くいます。こうした視覚遮断技術が注目されるのも、プライベートとビジネスを分けるためのものです。

以前、「スピーチプライバシー」について紹介しました。スピーチプライバシーは、会議中の音や病院での患者とのやりとりの声が外に漏れないよう、ノイズやBGM、環境音によって声をカバーする「マスキング(英語で覆い隠すの意味)」を行う技術であり、いわば聞かれたくない音を隠す「聞かせない」技術です。

しかし、自宅から行うテレワークで求められるものは、単にすべての音を隠す(マスキング)だけでは十分ではありません。なぜなら、家族の声や水の流れる音といった生活音のカットが必要な一方、当の自分の声は確実に届けられる必要があるからです。つまり、不必要な音はカットし、必要な声のみが届けられる技術が必要とされるのです。

その意味では、バーチャル背景は視覚情報の一部である背景だけを消去し、自分の姿は残しています。音声も同様に、一部はカットし、必要な音は残す必要があります。

◾「聞かせる音」と「聞かせない音」

こうした現状に対応する技術が登場しています。例えばvcube社が開発した「Krisp(クリスプ)」というノイズ軽減ソフトは、パソコンのタイピング音や家族の声といった環境音(ノイズ)と人の声を区別し、人の声だけを送受信することを可能としています。

他にもNTTは2018年、複数の人の声が混ざった状態から、目的とされる人の声だけを抽出して届ける技術「SpeakerBeam」を開発しています。このように音にも様々な種類がありますが、「聞かせる音」と「聞かせない音」を区別する技術開発が進んでいるのです。

プライバシーとは「自己情報コントロール権」といった意味を持っています。情報をコントロールするのですから、当然情報を隠すだけでなく、必要な情報を主体的に発信することもプライバシーに含まれるのです。

その意味では、ビジネス音(自分の声)と生活音(自宅の音)、つまり「聞かせる音」と「聞かせない音」を区別し、コントロールする技術が、現在の状況で求められている音のプライバシーと言えるでしょう。プライバシーは動画などの視覚情報だけでなく、聴覚情報にも必要とされているのです。

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