記憶に残る音楽は10代に聴いたもの。30歳になると新しい音楽の発掘意欲は削がれる――「音楽と年齢」に関する様々な調査紹介

2024.5/24 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、音楽と年齢に関する様々な調査について紹介します。

◾人は10代に聴いた音楽に親しみを持つ

過去を思い出そうとすると、最近のことを除けば、なぜか10代~20代の若い頃の記憶がよく思い出されることがあります。こうした現象は「レミニッセンス・バンプ」と呼ばれ、高齢者に顕著に見られることが、様々な研究からわかっています。

これについて、以前当ラボがご紹介したように、英仏の研究者が音と記憶について研究しています。フランスに住む18歳~82歳の470人に対して、1950年から2015年の65年間のヒットソングについて、自分の記憶と曲の関係、曲への親しみ、曲の好き嫌いなどを調査しました。

その結果、40歳以上の被験者は、14歳を頂点とする、思春期に聴いた音楽に親しみがあり、自分が経験した「自伝的記憶」と関係することがわかりました。逆に40歳以下の被験者にはそのような傾向はありませんでした。曲と記憶に関しては当然個人差はあるものの、様々な研究から、人は10歳~30歳くらいまでの記憶は自伝的記憶として残りやすいことがわかっており、若い頃に聴いた音楽が記憶に残りやすいと言えるでしょう。

◾良かった音楽は10代に聴いていたもの

その他にも、音楽と年齢に関する様々な調査が行われています(ニュースサイトの「GIGAZINE」が様々な調査内容をまとめています)。

例えば2018年にNew York Times誌が、1960年~2000年にヒットした曲とSpotifyユーザーの再生パターン等を分析したところ、男性は音楽の嗜好を形成する最も重要な年齢が14歳、女性は13歳であることを明らかにしました。やはり、先の調査と類似していると言えるでしょう。

他にも、調査会社の「YouGov」が2021年に17000人のアメリカ人に世論調査を行ったところ、あらゆる年代の人が、10代に聞いていた音楽を良いものと捉えるというデータが出ています。例えば、1982年から1999年に生まれたミレニアル世代で、もっとも音楽がよかった10年について、「1990年代」と答えた人が23%で最多でした。

◾人は30歳までに新しい音楽に興味がなくなる

では、人はいつから音楽に対して興味を失っていくのでしょうか。フランスのストリーミングサービス「Deezer」が2018年、イギリスに住む1000人にアンケート調査を行ったところ、平均して30歳と6ヶ月までに、新しい音楽の発見を行わなくなる、といった結果も公表しました。

といっても、回答者の47%は新しい音楽の発掘に時間をかけたいと答えており、また音楽の発掘が難しい理由として、選択肢が多い(19%)や仕事が忙しい(16%)、子どもの世話をする(11%)といった事情が関係しているとも言えるでしょう。

逆に、あたらしい音楽を発見するピークは平均24歳5ヶ月で、回答者の75%が週に10曲以上の新曲を聴くと回答しています。

他にもSpotifyのデータを分析し、10代は流行歌を聞くことが多いが、30代以降になると流行から外れた音楽を聞くことが多くなることを示すものもあります。

様々な調査から、音楽と年齢に関する様々な傾向が見て取れます。ただし、これらの調査を考える際には、地域や文化、またストリーミングサービスなどの技術を考慮しなければなりません。例えば、調査の多くは欧米に住む人々への調査ですが、戦争や災害が多発する地域では、そもそも音楽を聞くことが難しい若者もいることを忘れてはなりません。欧米の調査データは普遍的ではないということです。

またストリーミングサービスがますます増えていく中、今の10代は両親が自宅でかける音楽だけでなく、20世紀の様々な音楽を聞くことが可能です。実際、先のDeezerの別の調査では、イギリスに住む若者の音楽ファンの15%が、フルアルバムを聴いたことがないという結果もでています。音楽の聞き方も日々変化しているのです。

こうした影響がどのような変化をもたらし得るのかについては、例えば10年後に同様の調査を行えばわかるでしょう。こうした点にも注意しつつ、引き続き私たちと音楽の関係についてご紹介したいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?