電気刺激でリスニング能力が向上ーー「非侵襲性末梢神経刺激」とは何か

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「電気刺激でリスニング能力が向上~「非侵襲性末梢神経刺激」を考える」(Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)
2020.9/25 TBSラジオ『Session-22』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、イヤホンから流れる電気刺激で外国語学習の効果が上がるという、驚きの研究を紹介します。

◾非侵襲性末梢神経刺激

米テスラーモーターズのCEOで企業家のイーロン・マスク氏は、脳とコンピュータを接続することを目指す「ニューラリンク」という会社を設立し、小さなコンピュータを脳に埋め込み、人間の能力向上を目指しています。ただし、身体を直接傷つけるこの(侵襲的)方法は、リスクもコストも高く、現状では病気の治療などに用いられることに用途が限定されています。

一方で、身体に直接介入しない(非侵襲的)方法で身体に影響を及ぼそうという研究も進んでいます。例えば、感覚神経・運動神経の一つである迷走神経に、イヤホンから流れる電気刺激を与えることで、学習効率を高めるという研究が、2020年8月に公開されました。そこで注目されたのが、「非侵襲性末梢神経刺激(Non-invasive peripheral nerve stimulation)」です。

電気刺激と聞くと驚く読者もいるかもしれませんが、これまでの研究で、神経に電気刺激を与えることで、てんかんやうつ病等に一定の効果があることが知られています。そこで研究では、中国語を理解していない英語話者24名を対象に、中国語の発音聞き取り学習を実施しました。その際、一方のグループはイヤホン型の装置を装着し、そこから電気刺激を与え、他方のグループは刺激を与えませんでした(ちなみに、電気刺激といっても、人間が知覚できない程度のごく小さな刺激です)。

聴き取りテストの結果は、電気刺激を受けたグループは平均で13%~15%高い得点を獲得し、2倍の速さで学習のピークパフォーマンス(最大効率)に達しました。つまり、電気刺激によって、学習効率が高まったと言えるのです。さらに言えば、100点満点のテストで普段より15点以上高い点数を取ることができれば、学習意欲喚起、つまり「やる気」につながると言えるでしょう。

◾非侵襲性末梢神経刺激でできること

研究結果からは、他の言語学習においても、刺激方法を調整することで利用が可能になることが想定されます。つまり、様々な外国語の学習においてもこの方法が利用できるのです。

また電気刺激は音声学習だけでなく、リハビリテーションなど、福祉の分野でも活用が期待されます。電気刺激は身体を傷つけるものではないので、手軽かつ安心度が高いといえるでしょう。また、耳に装着したイヤホン型デバイスから電気刺激を流す研究は他にも、不整脈の一種である心房細動の治療に一定の効果が認められたものもあります。

外国語学習は、音声を利用するものの中でもとりわけ重要な学習分野です。非侵襲性の神経刺激法は、音の研究においても、関連が深い領域なのです。

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