高周波音波で3Dプリント、マスク装着時でも口パクで音声入力ーー「音の最新技術」紹介

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2022.6/17 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、音を利用した様々な最先端技術についてご紹介します。

◾高周波音波で行う「3Dプリント」

まずは、カナダのコンコルディア大学の研究者達は、音を利用して液体を固形に成形する「ダイレクト・サウンド・プリンティング(DSP)」と名付けられた技術を研究しています。

2022年4月に発表された論文によれば、この技術は、液体樹脂の一点に光や熱の代わりに、高周波音波(high-frequency sound waves)を短時間照射します。すると、温度は約1万5000度まで上昇し、樹脂を固めるのに充分な気泡が発生し、固形化を可能にする、というものです。もちろん、一瞬のことで範囲も狭く、まわりに影響は与えないことから、立体的な3D構造の物体の構築が可能になります。実際研究では、人間の皮膚に近い素材(ポリマーやセラミック)や豚の組織を利用することで、耳や鼻、またカエデの葉を成形しています。

このDSP技術の精度が向上すれば、将来的には人間の体内で、外科手術なしでインプラントを形成したり、また機械を解体することなく修理すること等、様々な領域で利用が考えられています。研究者は、最終的にはDSPで金属を「印刷=プリント」したいとも述べています。こうした技術がすぐに実用化できるとは考えられませんが、音の力がここでも有効活用されているのです。

◾口パクで音声入力を可能にするマスク

次に、(厳密には音ではありませんが、)マスク着用時に口パクで音声入力を可能にするマスク型デバイス「E-MASK」です。こちらは東京大学と産業技術総合研究所の研究チームが開発したもので、2022年3月に英語の論文が公開されています。

マスク(型デバイス)の中に8つのセンサーを配置し、口の動きに連動して動くマスクを捉え、音声入力に変換します。実験では、AmazonのAlexaに対して21の基本的な操作コマンド(音楽を再生させる等)を行いました。結果、座った状態での発話推定精度は84.4%で、歩行しながらの発話推定精度は79.1%でした。

研究者は利用方法として、混在した公共空間でも口パクで、つまり声を発することなくスマホ等への音声操作を想定しています。つまり、AlexaやSiri等、音声を通した操作を、このデバイスを用いて無音で行うことを可能にするということです。

現在のマスク社会がどこまで続くかはわかりませんが、2017年の日本の調査では、人前での音声検索は恥ずかしい、と答える人が全体での7割だったことがわかっています。スマートスピーカーの普及等により、現在では数字が変動している可能性もありますが、恥ずかしいと感じる人が多ければ多いほど、このようなデバイスの需要はあるかもしれません(実用化した場合の価格にもよりますが)。

いずれにせよ、音を利用したサービスは日々発展しています。定期的にこちらでも紹介を続けていきたいと思います。

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