牛の鳴き声に宿る個性とはーー「動物の声」を考える

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2021.4/23 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、牛の鳴き声に関する発見について、ご紹介します。

◾牛の声にも個体差がある

動物に一定の感情があり、それらを伝えるための手段があることが、少しずつ解明されています。以前にも当ラボでは、猫の鳴き声を調査した研究を紹介しました。人間に対して関心を引くために投げかけられる「ミャオ」という鳴き声を分析したところ、かぼそく高い声の「ミャオ」は助けを求めるもので、同じくかぼそく高いくも、ややかすれた鼻音で、イントネーションも高くなる「ミャオ」はおねだり意味することがわかりました。

そんな中、シドニー大学の生命環境科学部の博士課程に在籍する研究者、アレクサンドラ・グリーン氏は、5ヶ月に渡り、ホルスタイン・フリーシアンという種類の牛18頭(未出産)の鳴き声を録音・分析することで、牛の鳴き声に個性や感情があることを突き止めました。

2019年に公開された論文では、333の高周波発音の発声サンプルを採取し、どの牛の発音かだけでなく、おいしいものを食べたといった肯定的な状況、あるいは群れから離れるなどの否定的状況かどうかなど、多様な観点から分析を行いました。



結果、肯定的な状況と否定的な状況では、声の種類が変わることがわかりました。さらに、牛はどんな状況でも同じトーンで鳴くのですが、そのトーン自体は個体ごとに違いがあることがわかりました。つまり、個体ごとに異なる声がある、と言ってもいいでしょう。

この研究の下地にあるのは、母牛と子牛がお互いを固有の声で呼び合っているという、2016年の研究です。自分の子牛の声を録音したものを再生すると、自分の子牛以外の声と比較して、母牛は音の方向を振り返ったりスピーカーを見るなどの反応が強くなります。そしてその反応は子牛が幼ければ幼いほど強くなるといいます。つまり、子牛の声をきちんと認識しているということです。


◾動物の音研究の今後

こうした研究は今後、音響心理学の知見を加えることで、特定の牛の声を利用して牛を集合させるなど、酪農業に生産性の向上や、また動物の福祉の面など、様々な観点から活用が可能であるとのことです。

論文の共同執筆者で、グリーン氏の指導教員にあたる研究者は、この研究が、5ヶ月に渡って鳴き声のサンプルを熱心に収集したからこその成果であり、称賛すべきものだと述べています。実際、グリーン氏はヘッドフォンとガンマイクを持って、発情期や群れから離されて不安な状況など、様々な声が出る瞬間を録音するために何百時間もかけているといいます。様々な状況下での声のサンプルを採取し、それを分析するのは大変な作業です。こうした地道な努力によって、世界の謎が少しずつ解明されているのです。




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