電波がなくても音で情報を伝えるーー「音響通信技術」を考える

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「電波がなくても音で情報を伝える~「音響通信技術」を考える」(Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)
2020.8/7 TBSラジオ『Session-22』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、電波なしにスマホに情報を伝える「音響通信技術」についてご紹介します。

◾音響通信技術とは

以前、特定の範囲だけに音をとどける「指向性スピーカー」を紹介しました。これは、ショッピングセンターのような広い場所であっても、特定の場所の、特定の商品棚にだけ広告音などを届けるシステムであり、ソーシャルディスタンスを確保するためにも有益であると述べました。

こうした、音を利用して情報を伝えるシステムのひとつに、ヤマハが開発した音響通信技術「SoundUD」(Sound Universal Design)があります。この技術は、「音声トリガー」と呼ばれる、人には聞き取ることができない音で通信を行い、人間が意識することのないまま、周囲の人々のスマホ等に、様々な情報を掲載することを可能にするものです。送る方も受信する方も、スピーカーやマイクは通常のものでよいほか、ネットがオフラインであっても、またBluetooth機能なども必要ありません。

この技術を利用すれば、緊急事態が発生した場合に文字で情報を伝えたり、電車内でのアナウンスを(翻訳を含めて)文字化することなどが可能になります。また店舗やスタジアムにいる人だけに情報を発信したり、テレビやラジオを観ている、聞いている人だけに情報を届ける等、エンタメ領域でも効果が期待できます。

また同様の技術は他の企業も開発しており、劇場で観客のスマホが一斉に光るといった操作を行うものもあります。

◾災害・ソーシャルディスタンス時代の音

こうした技術は、ソーシャルディスタンス時代にも有効に機能するように思います。例えば、京浜急行電鉄(京急)のポイント付与アプリ「KQスタんぽ」は、平日のラッシュ時に混雑度の低い普通列車に乗ると、ポイントが付与されるものです。ポイントはその列車に乗った乗客にだけ与えられるので、結果的に満員電車の解消を促進することにもなります。また、決済システムにも音響通信技術が利用されることで、ソーシャルディスタンスの確保にもなります。

音響通信技術は、災害時に通信機能に問題が発生してしまった場合にも、常に音が、人間に聞こえる音情報だけでなく、電子情報としての情報を伝えることも可能です。とりわけ聴覚障害のある方には、有益に機能することが考えられます。

音響通信技術はこうして、いくつかの可能性を秘めています。一方で、通信技術が電波通信に一極集中してしまえば、電波に問題が発生したときに大打撃となってしまいます。何事もひとつだけでなく、いくつかの手段を確保しておくことが重要であるように思われます。その意味で、音を利用した技術開発は、今後も必要とされていくでしょう。

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