クジラは音声版アルファベットを持ち、カラスは数を鳴き声で数える――「動物と言語」の最新研究紹介
2024.6/07 TBSラジオ『Session』OA
Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、動物と音に関する最新の研究をご紹介します。
◾クジラは音声版のアルファベットを持っている
当ラボではこれまでも、クジラの音に関する研究について紹介してきました。こちら、何度も紹介してきた、「Project CETI :Cetacean Translation Initiative(クジラ目[鯨類]翻訳イニシアティブ)」という、生物学や言語学、ロボット工学、機械学習、カメラ工学の専門家等が参加する研究グループがあります。以前も、このグループがクジラから発せられる音声を収集し・AIで分析し、94%の確率で個体を識別する研究を紹介しました。
このProject CETIが2024年5月、新たな研究論文を発表しています。それによれば、クジラは人間でいう「アルファベット」のような言葉を理解している可能性があるというのです。
研究では、クジラが水中で行う「コーダ」と呼ばれるクリック音によるコミュニケーションに着目します。そこでまず、2005年~2018年にかけて収集した、マッコウクジラおよそ60頭からなる8719のコーダを分析します。
詳細を省いて述べれば、研究ではこのコーダの特徴を2つ(ルバート、オーナメント)に分けます。さらにこの2つをリズムやテンポの観点から再び分けて分析します。すると、各個体は状況にに合わせて、返事(コーダ)の質を変化させていることがわかりました。
結果的に、18のリズムと5つのテンポがあり、さらにルバートやオーナメントからなる様々な音記号を分析した研究者は、「マッコウクジラの音声学的アルファベット」を提案しています。つまり、これは人間の言語に似た属性をもつコミュニケーション記号なのではないかというのです。
AIによる機械学習が発展する中、動物が発する音の分析も進み、もしかしたら人間以外の生物が行っているコミュニケーションの一端を、我々は知ることができるようになるかもしれません。
◾カラスは鳴き声で数を数えることができる
続いては、カラスです。カラスは優秀な頭脳を持つことでも知られていますが、ドイツのテュービンゲン大学(エバーハルト・カール大学テュービンゲン)の研究チームが、2024年5月に発表した論文によると、カラスはなんと数を数えられる可能性があるというのです。
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adl0984
まず、先行研究によれば、すでにサルやミツバチなど、いくつかの動物は数を数える能力を有していることが判明しています(ミツバチは4までの数を理解します)。
研究では、日本にも全国的に分布しているハシボソガラス(Corvus corone)3羽を対象とします。
(※ちなみに、ハシボソガラスは畑や河川敷に多く生息し、体がもう一回り大きなハシブトガラスは、主に都市部に生息しているとのことです。)
このハシボソガラスに、音や記号をみせて、それに合わせて1~4回鳴き声を出すように訓練します。またカラスは必要な回数鳴いたあとには、標的をつついて終了の合図を出すように訓練しました。その結果、3羽すべてのカラスが、合図に対して正しい数の鳴き声を出すことに成功したとのことです。
さらに興味深いのは、カラスは1~4回の鳴き声について、それぞれ音に特徴を持たせていることもわかりました(カァァ↑、カァォ↓等)。
この研究で重要な点は、カラスが数の概念を理解していることだけではなく、同時に数の概念を鳴き声、つまり音で同時に表現することを可能にしているということです(数の処理と発声の制御)。こうした高度なスキルは、これまで人間だけが持つ能力だと思われていたと研究チームは述べています。
このように、動物が音をどのように理解しているかが、少しずつ判明してきました。AIの発展によって、今後もさらに研究が広がっていくでしょう。