骨伝導は利用されたのかーー「ベートーヴェンと聴覚」の研究紹介

2021.11/26 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、ベートーヴェンの聴力と、骨伝導の関係についてご紹介します。

◾骨伝導で音を聞く

以前もお伝えしたように、私たちが音を聞く原理には空気の振動による「気導音」と、骨の振動による「骨導音」があります。耳をふさいで話しても自分の声が聞こえるのは、骨伝導で音を聞いているからなのです。

私たちが声を発する時、通常は空気と骨の両方で音から音が聞こえます。録音した自分の声を聞くと自分の声ではないように思うことがありますが、これは空気からだけで音を聞いているため、いつもと音が異なって聞こえるのです。

骨伝導タイプのイヤホンは耳を塞ぐことがないため、ダイバーが水中で音楽を聞いたり、工事現場といった騒音が多い環境でも骨伝導マイクでコミュニケーションが可能になります。

また症状にもよりますが、難聴をはじめ聴覚に困難を抱えている人でも、骨伝導であれば音を聞くことが可能な場合もあります。

◾ベートーヴェンは骨伝導で音を聞いたか

また、割り箸とスピーカーを用意するだけで、骨伝導を体験することができます。まず耳を塞ぎ、口に割り箸を歯にくわえ、(例えばスマホの)スピーカーにもう片方の割り箸の端をくっつけて音を流します。すると、実際に骨伝導で音を聞くことができるので、ぜひ試してみてください。

実は、作曲家のベートーヴェン(1770-1827)はこれと同じ方法で音を聞いていたという説もあります。言わずとしれた偉大な作曲家のベートーヴェンは、最初は左耳から聴力に困難を抱え、諸説ありますが、少なくとも晩年は聴力に大きな困難を抱えていたことがわかっています。

ベートーヴェンはそのような状態にあって、木製の棒を口にくわえ、棒のもう一方の端をピアノに押し当てて音を聞いていたのではないか、という説が、世界中で聞かれることがあります。

しかし、過去100年間のベートーヴェンの聴力に関する研究をまとめた2020年の論文によれば、ベートーヴェンのこのような実践について記述したのは、彼と同時代ではない医師だけという主張もあります。つまり、ベートーヴェンが実際にこのような方法で骨伝導で音を聞いたかどうかについては、異論もあるのです。

ベートーヴェンの聴力に関しては、聴力を失った原因も諸説あり、また晩年でもある程度聴力があったのではないか、といった、様々な学説があり、どれも定説にはなっていません。また、聴覚に関する研究が進めば進むほど、ベートーヴェンが書き残したもの等、これまでに残っている証拠が別の角度から考察されることもあります。

いずれにせよ、こうした研究は歴史の偉人に対する興味だけでなく、将来の聴覚研究にも貢献するものです。


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