音が媒介する嫌悪感ーー「ミソフォニア」とは何か

2021.6/11 TBSラジオ『Session』OA

音声はその他、ポッドキャスト、ラジオクラウドでも配信します。

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、特定の音に対して嫌悪感を抱く「ミソフォニア」について紹介します。

◾ミソフォニア(音嫌悪症)とは何か

他人が発する咀嚼音や咳、鼻をすする音、あるいはキーボードのタイピングや時計の音など、特定の音に対して強い嫌悪感を感じる症状は、「ミソフォニア(音嫌悪症)」と呼ばれています。ミソフォニアの人は、こうした特定の音を聴くと、怒りや不安といった気持ちが生じてしまいます。そのため、音を発する空間から距離を取るため、社会的孤立等、その影響は広範囲に及びます。また海外ではミソフォニアの当事者たちによる相互ネットワークサイトもあります。

またそのため、昨今流行りのASMRのような音は、ミソフォニアの人にとっては耐え難い音であるとも言うことができるでしょう。

ミソフォニアの原因は神経学的なもの、あるいは臨床心理学的なものであると考えられていますが、本格的な研究は2000年代以降にはじまっていることから、未だ原因が完全に解明されたわけではありません。そのため治療法も確立されておらず、ノイズキャンセリング機能を搭載したイヤホン等を用いたり、認知行動療法等がありますが、完全な治療には至っていません。

◾ミソフォニアの原因とは

そんな中、イギリスのニューカッスル大学の研究者をはじめとするチームが、2021年5月に新たな研究を発表しました。それによれば、ミソフォニアに苦しむ人は、音を処理する神経と、口・喉の動きを処理する神経のつながりが強いことがわかりました。

まず研究者たちは、人の行動をみるとそれを模倣する「ミラーニューロンシステム」に着目しました(ミラーニューロンもまた、最近研究がはじまった新しい研究領域です)。ミソフォニアの症状は口の動きに関して発生するものが多くあります。そのため、口の動きに関する音に対して、動かしていない口の神経が反応することが、不快感につながるのではないかということです。

そこで研究では、40人のミソフォニアに苦しむ患者の脳と、そうではない人33人の脳の神経活動と比較しました。結果、ミソフォニア患者の脳は、聴覚的な反応は正常でしたが、顔の動きに関する脳神経が通常よりも活性化しました。このことは何を意味するのでしょうか。

まず、ミソフォニアは特定の音に対する感情的な脳の反応だと考えられきました。しかし研究からわかったのは、音そのものではなく、音によって自らが行動しようとする、運動システムに原因があると考えられるのです(あるいは、聴覚分野と顔の運動分野のつながりが非常に強いこと)。つまり、音はトリガーですが、音そのものが原因ではなく、音によって生じる運動システムが原因ではないか、とも考えられるのです。この差異は、今後の治療法の確立にとって重要であるかと研究者は主張しています。

もちろん、ミソフォニアに関する研究には様々なものがあり、今回の主張を裏付けるにはまだまだ研究が必要です。音が媒介となる問題は他にも存在するでしょう。こうした分野の研究も、続けられる必要があるのです。



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