感情を読み取るときに必要なのは顔か声かーー国際比較を通してわかる「文化的特徴」

2021.6/04 TBSラジオ『Session』OA

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Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、日本とオランダの比較研究でわかった、感情と声の関係について紹介します。

◾日本とオランダで分かれる「顔と声」

私たちは人の感情を読み取るとき、どの点に注意を払っているのでしょうか。東京女子大学の田中章浩教授とアムステルダム大学(オランダ)の研究者を中心としたチームが、感情の読み取りに関する国際比較実験を行い、その論文が先日公開されました。


顔から読み取った感情と声から読み取った感情の結びつけ方は文化によって異なりますが、田中教授が行った以前の研究でも、東アジア(日本と中国)では欧米(オランダ、カナダ)に比べて、声で感情を読み取る傾向が強いことがわかっています。つまり、欧米では視覚情報から感情を読み取る傾向が強いのに比較して、東アジアでは相対的に聴覚情報から感情を読み取る傾向が強いのです。

これを踏まえて今回の研究では、このような文化的差異が、子供の頃から存在するのかどうかが研究テーマ(リサーチクエスチョン)です。そこで、日本人とオランダ人の児童期の子ども(5〜6歳、11〜12歳)と大人(18〜32歳)の計296名を対象に、声と顔の情報から、どのように感情を読み取るかについて、実験を行いました。

その結果、11歳〜12歳と大人は、これまでと同様に、日本人はオランダ人よりも声に反応することがわかりました。一方、5歳〜6歳の時点では、日本人もオランダ人も顔に強く注目する傾向があることがわかりました。つまり、日本人が感情を読み取る時に声を重視するようになるのは、大人に向かう途中の、日本の文化が関わっていると考えられるのです。こうした文化が日本以外の東アジアに共通するのかといった点等、今後の研究にも期待が寄せられます。

また田中氏は最近公開された別の論文においても、日本人が感情的な顔よりも感情的な声のトーンに注意を払っているという研究結果を発表されています。

◾顔より声ーー視覚より聴覚の文化

言われてみれば「顔で笑って心で泣いて」のように、日本の文化では表情では伝わらないことがあるという前提が共有されているように思われます。また逆に、笑顔でも声では怒りや皮肉を込めた言葉は、欧米圏の人には伝わりづらい可能性があります。

これに似たものとして、人の顔のどこに注目するかという実験では、東アジアでは目元に注目するのに対して、欧米では口に注目することがわかっています。目は口よりも動きが少ないため、東アジア文化圏では目のような、微細な変化に着目していることがわかります(欧米の文化圏でマスクが忌避される傾向があるのも、人を判断する時に重要な口元を重視しているからであるという指摘もされています)。

いずれにせよ、日本では欧米に比較して、コミュニケーションにおいては視覚情報よりも聴覚情報を重視していることがわかります。声と文化の研究は、相互理解のためのコミュニケーション研究としても重要なのです。



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