AIがラジオ放送を自動で生成する可能性ーー「RadioGPT」の紹介

2023.3/17 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、AIがラジオ放送を可能にするかもしれない技術について説明します。

◾ラジオ放送を自動生成「RadioGPT」

米メディア企業の「Futuri」は2023年2月23日、ラジオ放送用のコンテンツを自動生成するAI「RadioGPT」を発表しました。Futuriの発表によれば、世界初のAI駆動型ローカライズラジオコンテンツソリューションとのことです。

名前からわかる通り、RadioGPTは話題のGPT-3技術による文章の自動生成システム、および同社が開発した流行等を予測してソーシャルコンテンツを生成する「TopicPulse」、そしてこれに合成音声テクノロジーを加えたものです。同社はあらゆる市場やフォーマットに合わせたラジオコンテンツを可能にすると述べています。

RadioGPTについては、楽曲にパーソナリティのコメントを加えたデモ音源が公開されています。Futuriによれば、FacebookやTwitter、Instagram等、25万以上のニュースや情報源をスキャンするTopicPulse技術を使用して、ローカル市場でトレンドとなっているトピックを特定。それらをもとに、GPT-3技術を使ってRadioGPTが放送用のスクリプトを自動作成し、AIによる合成音声が原稿を読み上げるというものです。もちろん、AI音声も様々なタイプが用意されているほか、既存のパーソナリティの音声でAIを訓練することも可能とのこと。

これまで、深夜の時間帯を合成音声がニュース原稿を読み上げることでコストを削減するコミュニティFM等の事例は日本でもありましたが、RadioGPTは本格的にAIによるラジオ放送の可能性を予感させるものです。またRadioGPTは、当然のことながらラジオだけでなく、ポッドキャスト用の音声にも利用可能なほか、ソーシャルメディアへの投稿コンテンツの自動作成も可能とのことです。

◾最新技術を利用した放送のあり方

Futuriはアメリカ企業であることから、現時点で日本語には対応していないものと思われます。とはいえ、同様のサービスが日本で登場してもおかしくはありません。そう考えれば、将来的には日本、あるいは関東地区といったより細かな地域から特定の情報をAIが取得し、例えば埼玉県なら埼玉の名産に関するニュースを読み上げ、それに対するコメントを加えた上で、埼玉出身のアーティストの曲が流れる。それらをAIがすべて自動で行うといった内容が想定できます。

もちろん、RadioGPTが利用するGPT-3技術には、正確性の問題等が世界的な問題となっています。2023年3月には最新のGPT-4技術も発表されましたが、上記の問題から、こうした技術がすぐさま既存の放送局に利用されるとは考えられません。また、こうした技術を利用するにしても、人間による細かなチェックは必要です。さらに言えば、AIには地域にまつわる話はできたとしても、記憶にまつわる話、例えばある地域で20年前に行われていた祭りの中でのある出来事など、人間の記憶に密着した内容などは語ることができません(将来的には可能になるかもしれませんが、すぐには難しいでしょう)。

結局のところ、AIパーソナリティと人間のパーソナリティのいずれかを選ぶ場合は、リスナーとの距離感や話の内容等、様々な条件設定によって選択が行われるでしょう。とはいえ、そうであればこそ、特定の時間帯や状況によっては、AIパーソナリティが期待される場合もあるでしょう。他にも、例えば特定のアニメのキャラクターの人格を模したAIパーソナリティ(役を演じる声優ではない)がラジオを行うといったアイデアも見いだせるでしょう。

もちろん、RadioGPTのようなサービスは、ラジオだけでなく、ポッドキャストや様々な音声コンテンツに利用されることも期待されます。近い将来に実装されるこうしたサービスを前に、私たちは技術を敵対視するだけでなく、どの分野はAIに任せ、どの分野は人間が担当すべきなのか、あるいは人間ができること、人間とAIの協業から生まれる可能性など、様々な可能性にも目を向ける(耳を向ける)必要があるでしょう。

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