合成音声で声紋認証が突破されるーー「声のセキュリティ」の事例紹介

2023.3/10 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、声とセキュリティに関わる問題をご紹介します。

◾合成音声で声紋認証を突破

技術の発展に伴い、声の情報にもセキュリティが重視されるようになっています。例えばアメリやヨーロッパの銀行では、口座にアクセスするために、電話口で自分の声を利用する「声紋認証」を採用する銀行があります。

2023年2月、デジタルメディアサイトの「vice」に、ライターのジョセフ・コックス氏が記事を執筆しています。それによれば、コックス氏はイングランドとウェールズに店舗を持つ「ロイズ銀行(Lloyds Bank)」に電話をかけ、AIで作成した自分の声の合成音声で認証を突破しています。この声は、以前当ラボでも紹介した「ElevenLabs」という、元グーグルのエンジニア等が起業した合成音声に関するスタートアップ企業のサービスを利用したものです。同社のサービスはレベルが高く、それ故にディープフェイクボイスとして、有名人の合成音声を不適切な目的で利用されることが多く、問題となりました。

一方、ロイズ銀行はこの件に対して、声紋認証はオプションであり、詐欺に利用されたケースはなく、また声紋認証サービスによって、電話詐欺は大幅に減ったと回答しています。ですが、記事ではその危険性について、声紋認証を突破することで口座残高の確認、場合によっては振り込み、またはそうでなくてもユーザーの個人情報等が盗まれる危険性等を挙げています。

こうした件からわかること、それは自分の声がセキュリティの対象になるということです。さらに言えば、AIによる高精度の合成音声と昨今のチャットAIが掛け合わされるようになれば、電話による詐欺は、今後はより巧妙なものになる可能性が指摘できるでしょう。

◾声のセキュリティを考える

上記の件からも、声に関するセキュリティはより重要性を帯びていることがわかります。他にも、人間の声からは、健康や感情に関する情報を読み取ることが可能であり、ターゲット広告をはじめ、声の情報そのものに価値があると見なされます。

音声や音声認識技術に関する世界市場は2026年までに209億ドル、2030年までに423億ドルになるとのレポートもあります。そこでは、自動車用のデジタルアシスタントといった、従来の音声会話に加えた新たなサービスや、声を利用したヘルスケアアプリなど、様々なサービス開発が考えられています。

そこで、フランスで音声を研究する研究者たちは、声のプライバシー保護技術の基準を設ける取り組み「VoicePrivacy Challenge」を2020年から行っており、論文を公開したり、声を守るためのシステム開発をしたりと、様々な活動を行っています。

https://arxiv.org/pdf/2109.00648.pdf

声のセキュリティを守るためには他にも、ウェブ上では音声データを暗号化し、機械で読み取れないようにするといった、プライバシー処理技術の開発などが挙げられます。もちろん、こうした技術開発は、システムを破る者たちとのいたちごっこになりがちです。

とはいえ、顔データのセキュリティが叫ばれる中、声のセキュリティが一層重視され、声データを守るための法律の必要性が今後議論されるならば、こうしたシステム開発に大きな注目が集まります。いずれにせよ、顔と同じく声にも高い価値があり、それ故に重要なデータであることを認識する必要があるのです。


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