盲学校への取材でわかったことーー「YouTubeを見る」とは何か

2021.7/02 TBSラジオ『Session』OA


Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、当ラボがはじめたweb連載から、取材でわかったことについて紹介します。

◾Screenless Media Lab.の連載がスタート

当ラボは、President Onlineにて「アフター・プラットフォーム」という連載を2021年6月からはじめています。最近の映像配信プラットフォームでは、最新作が無料で旧作が有料という、一昔前とは異なる方式を取っている理由についてなど、音に留まらず様々な題材を扱っています。

そんな中、2021年6月30日に「『一番見るのはヒカキン』盲学校の生徒たちがYouTubeに夢中になるワケ」と題した記事を公開しています。この記事は、当ラボがコロナ禍以前の2019年に文京区の東京都立文京盲学校に取材した内容がベースとなっています。

◾ヒカキンを「見る」盲学校の生徒

脚本家の寺山修司は1984年、文京盲学校の生徒への取材をもとに、視覚障害者が色についてどのように感じているのかについて、ラジオCMを制作しました。

CMの中で寺山は、生徒たちが「白い色は、蒸気機関車の汽笛の音が流れる音。金色は、金属の鍋を叩く音」など、詩的とも言える表現で答えたといいます。そしてこのCMは「ACCパーマネントコレクション(CM殿堂入り作品)」に選定されており、高く評価されました。

一方、30年以上を経て再度私たちが盲学校の方々にインタビューをしたところ、色と音に関する印象は、大きく異なっていました。まず視覚障害者の方々は、これまで以上に便利になった点字デバイスや、スマホ・タブレットの音声読み上げ機能(特に倍速)などを用いることで、大量の情報収集が可能になっています。情報収集は音声読み上げ、小説など、細部の表現をじっくり読む時は点字デバイスを活用するなど、近年の急速な技術発展によって、視覚障害者の情報量は飛躍的に多くなっていることがわかります。

そのため、小説などから細かな表現を理解することで、色の概念についても、健常者とまったく変わらないわけではありませんが、数十年前に比較しても、非常に正確な知識を有しています。特にスマホの登場は視覚障害者に大きな影響を与えており、目の代わりとなる情報を伝えるだけでなく、生活全般に渡る利便性の向上に寄与しているとのことです。

また、特に若者はYouTubeを「見る」と述べています。どういうことでしょうか。例えば人気YouTuberのヒカキン氏のコンテンツは、字幕だけでなく、効果音や商品の説明が細かくされており、場面転換(切り替わり)や喜怒哀楽の表現がよりわかりやすく、画面がなくとも音の演出だけで内容が理解可能になっています。その意味でYouTubeを「見る」と表現されているのです。

こうしたことによって、視覚障害者は寺山のCMのように、「色を音で表現する」必要がなくなってきています。ともすれば「感性的な表現の豊かさ」と視覚障害者に対して健常者が抱きがちな思いは、実はただの情報格差に過ぎないものだったかもしれません。さらに言えば、健常者が障害者に対して、「感覚が制限されているからこその豊かな感性」などと表現することは、健常者の傲慢さであるとも言えるのではないでしょうか。

情報過多と言われる時代にあっても、音声情報は視覚障害者にとってもっと必要なものです。音声が様々な人に与える影響について、当ラボは今後も考えてまいります。

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