リアルな感情を伝える音とはーー「AudioMovie」の技術紹介
Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2020.12/11 TBSラジオ『Session』OA
Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、ラボが監修しているAudioMovie(オーディオムービー)の技術について、詳細に説明します。
◾音の様々な工夫
これまでも何度かご紹介してきた「AudioMovie®(オーディオムービー)」は、TBSラジオが設立したサービス&ブランドで、当ラボが監修にあたっています。現在は AudioMovie第3弾『つけびの村 by AudioMovie™』がポッドキャストやYouTube、ラジオクラウド等で全6話を配信しています。本作は晶文社から出版されている、猟奇的な連続殺人事件を追ったノンフィクション作品『つけびの村』を原作とした「フィクション作品」になります。
AudioMovieの特徴は、ユーザーの「主観的な没入感」であり、客観的な状況を伝える言葉は少なく、物語の主人公とユーザーが強くシンクロすることにこだわりがあります。そのために音源の配置に趣向を凝らし、例えば火事の現場に向かう時には近づくほどに音が大きくなったり、タクシーのドアが閉めると、それまで曖昧だった音が正確に聞こえるなど、音の圧(音圧)にも注意しています。
音は普段の生活の中にあるもので、私たちが意識することはありません。一方で、こうした配慮がない場合、例えばタクシーを降りる時に小銭の音(金銭のやりとり)がなければ、わたしたちはすぐに違和感を感じてしまいます。AudioMovieはこのような、ユーザーが気づかないレベルで日常を演出する音の配置を行い、音を通して主人公とユーザーが一体感を得ることを可能にします。様々なテクニックを探すという目的で、何度も聴き直していただければと思います。
さらに、音声は視覚と比較して覚えていられる領域(フラッシュメモリ)が少ないこともあり、なるべく音だけで出来事を理解できる仕組みになっています。例えば電話のシーンでは、テレビドラマであれば「電話する」といって電話をかけますが、AudioMovieでは電話の操作音を先に出すことで、ユーザーに出来事を即座に理解させるのです。
◾演技をしすぎないこと
AudioMovieは、セリフにも多くの工夫が施されています。テレビドラマなどではどうしても説明口調が多く、また日常では用いることのないセリフになってしまいますが、私たちの普段の会話は、主語が抜けていても文脈で内容が伝わり、それが自然です。そこで、主語を意図的に排除したり、またそのキャラクターが言いそうなセリフを採用するといった配慮を行っています。特に音だけのドラマでは、セリフに違和感があれば途端にユーザーが冷めてしまうため、言葉遣いまで丁寧に工夫しています。他にも人物像を伝える手段として、例えばスマホを操作するときに爪の「カツカツ」という音がすることで、それが主人公の女性が操作していることを伝えるなど、リアルさを追求しています。
もうひとつは、「演技しすぎない」というものです。テレビドラマなどは表情や涙など、過剰とも言える演者の演技力で迫力を伝えることがありますが、音声メディアの場合、過度な演技は逆に違和感を感じてしまいます。
以前も紹介した通り、映像よりも音声の方が、相手の感情を正確に見抜くことができます。これは裏を返せば、音声では感情を誤魔化せないということです。聴覚メディアは音だけに集中するが故に、その人の感情を正確にとらえると言う意味で、大げさな演技や涙などがいかにも嘘っぽくなってしまうのです。そのため、リアルを追求する点では、演技しすぎないことも重要な要素になっています。こうした点はまだまだ試行錯誤ではありますが、実際に聞いてみて判断していただければ幸いです。
◾選択せずに楽しめる「長尺コンテンツ」も求められる
以上、様々な工夫がされたAudioMovieですが、深くユーザーが物語に没入すれば、友人との会話があっという間に感じるように、時間を短く感じるかと思います。
昨今のコンテンツは、寝る前の5分やニュースを手短に伝える15分程度の短いコンテンツに注目が集まっています。AudioMovieも1話15分程度にしていますが、一方で全てをまとめた「1話完結版」の配信も、ポッドキャストやYouTubeで行っています。
短いコンテンツは聴きやすいですが、1話ずつ選択することに疲れてしまうこともあります。一方、音声コンテンツは長くても聴き疲れがあまりありません。特に没入感のあるAudioMovieは、物語にどっぷりと浸かることで得られる良さがあると思われます。選択に疲れることがなく、長くても聴き応えのあるコンテンツも求められる中、ぜひ一話完結版も聴いて、両方の感じ方の変化を楽しんでもらえたらと思います。
AudioMovieは今後も新作を配信予定です。ぜひ、楽しみにしていただきたいです。
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